常夏 1


主演ドラマの撮影が始まった直人は、めまぐるしいスケジュールをこなす生活。

アクションシーンもあるし、怪我しないか?とか。

睡眠不足で風邪ひかないか?とか。

疲労で倒れないか?とか、そんなことを日々心配してしまう私。

だから言わずと直人の住むタワーマンションに通う日々を送っていた。

職場も都内だから埼玉の実家から出勤するより近くて、私は1ヶ月のほとんどを直人の部屋で生活するようになっていた。



「EXILE NAOTO 半同棲!通妻は一般人……なんちゃってー!」



ほとんど自分じゃ使ってない!って言っていた片岡邸のキッチンでエプロンをつけてそんな独り言。

思わず自分で言って噴き出した瞬間、ガチャっと家のドアが開いた。

廊下を歩いてくる音に視線を向けて待つ私にリビングのドアを開ける愛しい恋人、片岡直人。



「ただいま!」



私に向かってニッコリ笑顔をくれる。



「直人さんお帰りなさーい!お疲れ様です。お風呂湧いてるよ!ご飯ももうすぐできるけど、外で食べてきた?」

「食ってない!ゆきみが来てると思って食わないで帰ってきた。いなかったら誰か誘って飯行くかなー?って思ってたからよかった」



ソファーに座って身体を伸ばす直人の顔は疲れていて。

普段外では疲れを一切見せることのない直人は、私の前でだけ物凄い疲れた顔を見せてくれる。

思わず料理していた手を止めてソファーの直人の前まで行くとキョトンと私を見つめ返していて。

そっと頬に触れて近づくと当たり前に目を閉じる直人。

クスッて微笑んでそのまま頬の手をムニュっと動かした。



「あれ?チューじゃないの?」



それでも目を閉じたまま直人が聞いて。

顔の筋肉をほぐすようにマッサージの本で読んだ顔マッサージをしていく。



「直人さん顔下がってるからあげてあげる!チューしたかった?」



私が聞くと「チューされたい。受け身な感じで…」半笑いで答える。

そうとう疲れてるんだなーって。

それでも私が触れたことでキスしたいって気持ちになってくれたことはやっぱり嬉しくて。



「あは、受け身!そんなのメンバー聞いても誰も信じないだろうねー!」

「肉食か!」

「肉食でしょう?」

「男なんてみんなそんなもんっしょ」

「うん、ふふふ。今日は受け身の直人さんでもいいよ!マッサージ終わったらチューしてあげる」

「やった」



素直にマッサージされている直人の無防備な姿を見て心がホッとした。

少なからず私の前では我慢も遠慮もしていないその素の姿が、どれだけ着飾ったかっこいい姿よりも愛しく思える。

直人のこんな姿を見れるのは私だけだって。



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