揺れる女 1
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「あ、ゆきみちゃん!今夜空いてる?」
ポンっと管理課を出た廊下で肩を叩かれてそんな質問に足を止めた。
振り返らなくても分かったのは相手が直人くんだから。
密かに憧れている直人くんだったからで。
「今夜?」
「うん!すげぇ上手いワインバー見つけちゃって、デートしない?」
私を見てニコッと微笑む直人くん。
その笑顔が好きな私。
ひとつ返事で頷こうとしたその瞬間、「俺も連れてってよ直人!」私の腕を引いたのはてっちゃんで。
振り返った私のすぐ傍にその綺麗な顔があったせいもあって、ドクンと心臓が音をたてた。
そんな私の反対側軽く舌打ちをしたのは直人くんで。
「出たな、土田哲也!」
なんて言うんだ。
言われたてっちゃんはなんてことないって余裕の顔で直人くんを見て微笑んでいて。
「デートの邪魔して悪いなぁ、直人!」
葉っぱかけるような台詞まで飛ばしている。
直人くんはそれでもてっちゃんを睨むこともなく「いいっすけど!」これまた余裕に答えたんだ。
そう私―――何を隠そう、この二人の間で気持ちが揺れている女。