エピローグ


HIROさん彩さんへの挨拶を終えた私と直人。



「…緊張した…」



ガクンっと膝に手をついて呼吸を整える私を見て隣で笑っている直人。

あんなに行く前は直人のが緊張していたのに、紹介したらしたですぐにドヤ顔祭りで…。

そんな直人をさすがだな…って思わずにはいられない。



「いやいやお嬢さん、そんなに緊張した?」


ポスっと私の腕を引っ張って体制を整えてくれるけど、硬くなった筋肉はまだとうてい緩みそうもなく。



「だって!HIROさんだけかと思ったら彩さんまでいたんだもん!女優さんだよ!あんな間近でしかも話せるなんて一般人の私にはハードル高すぎ!」

「ゆっくりでいいから慣れてね?」


ふわって直人の手が優しく私の髪を撫ぜた。

ドキっとして直人を見ると本当に幸せそうに笑っていて。

だから直人の腕にギュっと絡みついた。



「うん。ありがとう紹介してくれて…」

「当たり前だろ。HIROさんに通しておくのも俺のケジメだから」

「直人さんかっこいい!」

「俺かっこいい!って、おーい!いい加減直人って呼べって?」

「…ぷ。だってなんか恥ずかしいし癖だし…」


私が唇を尖らせていると、直人が私の顎をガって掴んで顔を寄せた。

え、キス?

慌てて目を閉じるけど、何も降りてこなくて。



「しないしない!さすがにできねぇから!」


ポンポンって髪に触れた。

ですよね…。

やーだ、私ってば。


「意地悪…」


ちょっと悔しいからそう言うと…



「ゆきみが気をつけろ!って言ったんじゃん!拓の家で飲んだ時に!忘れた?」

「…忘れてない」

「おいおい忘れてたろ?!まぁいいけど」



そう言って直人はまたふわりと微笑んだ。



「あん時さ…”直人の口から出た言葉しか信じない”ってゆきみ言ったじゃん?」

「え?うん、言った」

「”直人”って無意識で言ったの?」


…言われて思い浮かべても何も出てこなくて。

ってことは、あれか!

無意識か…



「私言った?直人さんの言葉しか…って言わなかった?」

「言ってねぇよ。直人って…。俺マジあん時、コイツ無意識で呼び捨てかよ?って勝手に喜んでたもん!」

「喜んだの?」

「そうだよ!あの瞬間ゆきみに恋しちゃったから!」


サングラスの下、軽く口端を緩めていて。

想いを堂々と口にしてくれる直人だから、私は今の所なんの不安も不満もない。

逢いたい…と思うのは常日頃だけれど、直人は私にあの日みたいに泣かせるような時間を与えてくれなくて。

毎日毎日、直人を想うだけで幸せいっぱいになれる。


クイっと繋がっている腕を引き寄せると、自然と直人の視線が下りてきて。



「私はね、初めて逢ったあの日。私を助けてくれたあの日、直人を好きになったの」

「…それも計算済み!」

「知ってる!それが直人だもん」

「さすが!俺のゆきみ」



暖かくなってきた今日この頃。

私と直人の物語は季節が変わってもずっと続いていく…――――





*END*

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