余裕の裏側


――――――――――
―――――
―――



「…………」


え?

頭の中の声は、思いの外口に出てはいなくて。

ソファーの隣にいる直人は私をじっと見てその返事を待っている…と思う。

パチクリと瞬きをして私を見つめる直人は、可愛いというよりは色っぽくて。

こんな時になにその色気!?

いやきっと、こんな時だからこそ、その色気なんだって。

ここまできたらもう覚悟決めるしかない。


「ゆきみちゃん?」

「はっはいっ!」


慌てて返事をした私に、くすりと直人の笑いが届いた。

何故か余裕に見える直人。

こんなにも私を緊張させる直人。


「してもいーい?」


ほら。

余裕な顔でそんな言葉。

私なんて口から心臓吐きそうな気分なのに。


「ままま待って」

「どんくらい?」

「へっ!?」

「どんくらい待ったらできる?」

「おおおおお押すね、直人さん」

「そりゃね。隣にゆきみちゃんがいて両想いなのに、手だせない俺、そりゃ我慢も限界があるよ。こう見えても男だから俺」


にこって微笑む直人。


「直人さん私、いきなりだから緊張してて」

「うん」

「だってキスって」

「この前しそこねた、キスね」


そう言って、直人の手が私に伸びてくると、ゆっくりと唇に触れた。

親指でスーッと私の唇の輪郭をなぞる直人は最高にエロチックだ。

そっと目を閉じたら間違いなく直人はキスをしてくるだろうと。

だけれど、私にはまだ聞いておかなきゃならないことがある。

だから、思いっきり目をかっぴろげたら、直人が一瞬固まって、それから小さく笑ったんだ。


「まだ聞きたいことある?」


そう言うから私はコクっと首を振った。

一番聞きたかったこと。


「もう嫌われたのかと思ってた」


私の言葉に、質問を予想していたんであろう直人の顔つきが真剣になって。

眉毛を下げて困ったように笑う直人が、その唇をそっと開いたんだ。


「もう逢わないつもりだった」


直人の言葉に胸がギュッと締め付けられる、そんな気がした――――。




―――
―――――
――――――――――

- 40 -

prev / next

[TOP]