余裕の裏側
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「…………」
え?
頭の中の声は、思いの外口に出てはいなくて。
ソファーの隣にいる直人は私をじっと見てその返事を待っている…と思う。
パチクリと瞬きをして私を見つめる直人は、可愛いというよりは色っぽくて。
こんな時になにその色気!?
いやきっと、こんな時だからこそ、その色気なんだって。
ここまできたらもう覚悟決めるしかない。
「ゆきみちゃん?」
「はっはいっ!」
慌てて返事をした私に、くすりと直人の笑いが届いた。
何故か余裕に見える直人。
こんなにも私を緊張させる直人。
「してもいーい?」
ほら。
余裕な顔でそんな言葉。
私なんて口から心臓吐きそうな気分なのに。
「ままま待って」
「どんくらい?」
「へっ!?」
「どんくらい待ったらできる?」
「おおおおお押すね、直人さん」
「そりゃね。隣にゆきみちゃんがいて両想いなのに、手だせない俺、そりゃ我慢も限界があるよ。こう見えても男だから俺」
にこって微笑む直人。
「直人さん私、いきなりだから緊張してて」
「うん」
「だってキスって」
「この前しそこねた、キスね」
そう言って、直人の手が私に伸びてくると、ゆっくりと唇に触れた。
親指でスーッと私の唇の輪郭をなぞる直人は最高にエロチックだ。
そっと目を閉じたら間違いなく直人はキスをしてくるだろうと。
だけれど、私にはまだ聞いておかなきゃならないことがある。
だから、思いっきり目をかっぴろげたら、直人が一瞬固まって、それから小さく笑ったんだ。
「まだ聞きたいことある?」
そう言うから私はコクっと首を振った。
一番聞きたかったこと。
「もう嫌われたのかと思ってた」
私の言葉に、質問を予想していたんであろう直人の顔つきが真剣になって。
眉毛を下げて困ったように笑う直人が、その唇をそっと開いたんだ。
「もう逢わないつもりだった」
直人の言葉に胸がギュッと締め付けられる、そんな気がした――――。
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