逢いたくて… 5


「直人さん、女と食事なんて嘘だよ。誘ってないだけ。ゆきみちゃん、会いに行ってきなよ。きっと会えるよ、ここに行けば…」



そう言っていい人化した岩ちゃんが教えてくれた場所に、私は迷わず向かったんだ。


ここからそんなに離れている場所じゃなかったから、多少分かりそうな場所だったから、歩いて向かっていると、空から真っ白い雪がパラパラと舞い落ちてきて…。



「…雪…」



そう呟いたら握りしめていたスマホが振動した。

画面を見ると、映し出されていたその名前に涙がこみ上げてきて。



「はい…」

【オレオレ!ゆきみちゃん外見てみ?雪だよ!!】



テンション高い直人の声に堪えていた涙がポロっと零れ落ちたんだ。



【もしもーし!あれ?聞こえてる?電波ねぇかなっ…。ゆきみちゃん?】



そうやって言ってる声が、前方から聞こえてきて。

何も話せない私に気づいた直人が、サングラスをずらしてこっちを見たんだ。



【え、マジで?】



直人が物凄い勢いで走ってきて…



「どうしたの?」

「直人さ…んに…逢いたく…て…」



やっとの想いでそう言葉にすると、「バカヤロ…」そう聞こえてそのまま腕を取られて寒空の下、ビルとビルの間にある狭い路地裏に連れて行かれて、そこでギュウ〜…っと抱きしめられた。

その温もりが温かくて…優しくて…安心できて…



「直人…」



小さく何度か直人の名前を呼んだ。

その度に直人は私の頭を撫でてくれて。



「うん」



何度も小さな相槌を打ってくれるんだ。

そうしているうちに私の涙も止まって、落ち着きを取り戻してきて…。



「ゆきみ…」



名前を呼ばれて顔を上げると、真剣な顔の直人と目が合った。

私の頬を指で撫でて、その手をゆっくりと顎にかけた。

だからキスされる…って分かった。

もうこれが遊びでもその場の感情でもなんでもいいって思った。

ゆっくりと目を閉じた私に、直人の吐息が唇にかかる。

その瞬間ギュっと唇に力を入れたら…――――――直人のオデコがコツっと私のオデコに当たった。



「なにがあった?」



それからそう聞かれて。

そっと目を開けると、目を閉じたままの直人が私のオデコに自分のオデコをくっつけていて。



「…岩ちゃんと仕事で会って…」

「え?岩ちゃん?」



吃驚したのか目を開けて私から少し距離を取る直人。



「ちょっと色々あって混乱しちゃって、直人さんの顔が見たくなって…来ちゃった」



私の言葉にまた、顔を胸に押し付けるみたいに私をギュっと抱きしめる直人。

そっと背中に腕を回すと、私たちの身体がピタっと密着してドキドキする。



「そっか。悪かったね岩ちゃんが」

「でももう平気。直人さんに逢えたから…大丈夫」



それは本当で。

直人の顔を見て、こうして抱きしめて貰えて、安心できたのは確かだった。



「オレの顔…よかった?」

「…うん。かなり…」

「だろ?」

「うん」

「よかった、逢えて。一人で泣かせないで…マジよかった」

「ズルイな…」

「ははっ、今日は本気だよオレ」

「今日は、なの?」

「いや、いつでも本気!」

「もうっ…」



ふふって笑うと、直人も優しく微笑んでくれたんだ。


だけど、この日を境に、直人からの連絡がパッタリと途絶えてしまうなんて…――――――――




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