逢いたくて… 4
「一ノ瀬さん衣装変えます」
「はっ!?」
衣装さんに別室に連れて行かれて、薄っぺらい下着を渡された。
「なんすか、これ…」
思わず素の自分が出てしまって。
「大丈夫、ベッドの中でこの格好になるだけで、ほとんど写さないから。見られたとしてもカメラマンと岩田くんだけだし、大丈夫ですよ」
いや大丈夫じゃねぇから聞いてんだけど…。
とは言えず。
それでもきっと直人ならこれもやるんだって自分に言い聞かせて薄っぺらい下着を纏って、上からいかにもなガウンを着て撮影場所に戻った。
勿論ながら岩ちゃんはパンツ一丁で。
「先にゆきみちゃん入って脱いで」
ご丁寧に誘導してくれた。
まさか自分がこんな恰好を人前に晒すなんて考えただけでも怖くて。
勿論見えないように撮ってくれるんだろうけど…
仕方なくガウンを脱いで反対側のスタッフさんに渡すと、すぐに岩ちゃんがベッドの中に入って来た。
後ろから私を抱きしめるような恰好で。
「………」
やだ、どうしよう…。
これじゃあこの前の直人と同じ。
あの時は直人の吐息が髪にかかってて、それで足もからまってて…直人の手なんて私のお腹らへんにあったのに、全然嫌じゃなかった。
それなのに…同じように岩ちゃんに撮影でされているって分かってる。
分かってるけど、物凄い嫌悪感で。
直人…――――――助けて…
ずっと、撮影が終わるまで直人のことだけを考えてこの撮影を終えたんだ。
もしかして岩ちゃんはあの時起きていたんじゃないかって。
そんなことまで勝手に思ったけど、それ以上に私の心は直人だけを求めていて。
約束通り、撮影を終えた岩ちゃんと直人が来るのを待ちながら個室でご飯を食べているんだけど、岩ちゃんの話をどこか遠くで聞いているような感覚だった。
「ゆきみちゃん聞いてる?なんかさっきからおかしいよね…」
岩ちゃんが私を心配そうに見ている。
でもやっぱり心は直人だけを求めていて。
「岩ちゃん直人さん遅くない?」
私が聞くとニコっと笑って岩ちゃんが言ったんだ。
「あ、直人さん来れないって」
「え?」
「先約入ってたみたいで、女の子と。さっき連絡きたんだ、ごめん言うの忘れてて…」
女の子と…なの?
一線引くのに、女の子とご飯は普通にいくんだ。
何かもう、よく分からなくなってきた。
目の前の岩ちゃんの言葉をそのまま信じることも、かと言って違うとも言い切れなくて。
だけどやっぱり無理で。
やっぱり私の中は直人しかいなくて。
「…ごめん帰る。帰りたい…」
荷物を持って立ち上がったら、岩ちゃんも同時に立ち上がって…
「なんで直人さん?」
そんな言葉を飛ばされたんだ。
「なんでって、別に私は…―――――ンッ…やっ!!」
強引に岩ちゃんに壁に押し付けられて、強引にキスをされそうになって、思いっきり顔を背けた。
力任せに押さえつけた岩ちゃんの急所をスコンっと足を上げて膝でノックアウトしたら「いってぇ!!」岩ちゃんが私を離した。
膝をついてバタバタしている岩ちゃん。
「ごごごごごめんねっ、岩ちゃん!」
「酷いよ、ゆきみちゃんっ…」
「ごめんなさいっ!本当にっ…」
「…分かったよ、もう。オレが悪かった…。やっぱり無理やりなんて卑怯だよねオレ。マジでごめん」
岩ちゃんに謝られて私は小さく首を振った。