飲み会 7
「一ノ瀬さん、好きになっちゃいました?直人さんのこと……」
直人がここにいないのをいい事に、たっくんが核心を突くような言葉を飛ばして。
私は黙って首を横に振った。
今この場で言っちゃいけないような気がして。
直人を好きだという気持ちごと、隠さなきゃいけないきがして。
yes……と認めてしまったら、もう二度と直人に逢えなくなってしまうんじゃないかって、そう思えたんだ。
「なってないから安心して」
ニコッと笑って私は立ち上がる。
やっぱり帰ろう。
浮かれてこんな場所にいちゃマズイって。
「おトイレ借りるね?」
そう言って鞄を持ってトイレに行ったんだ。
たっくんのマンションは、一人暮らしにしては広くて。
リビングと廊下の間にドアがあって、トイレと寝室は廊下側にあった。
だからそのままトイレを出て寝室に置かせて貰った上着を羽織った時だった。
腕をギュッと掴まれて……
私が今日つけていた香水と同じ香りが漂ったんだ。
「帰さないから」
「な、おと……さん……」
「てゆうか、こんな真夜中に女一人で夜道あるかせらんないし、帰る必要ないから」
ポンって直人の手が私の髪に触れる。
振り返って直人を見ると真っ直ぐに私を見ていて。
「岩ちゃんがごめんね?キツく言っといたから大丈夫だと思うけど……あんましオレの横から離れないでほしいな」
そんなに大きくない目でじっと私を見つめている直人。
ある意味岩ちゃんよりも直人の方が私にとっては大丈夫なんかじゃなくて。
そーいう台詞を無意識で言ってるとしたら、ズルイよね。
「直人さんやっぱりズルイです」
「ズルくないよ。まださっきの約束果たしてないしね、それオレ着てもいい?」
黒いアウターを私の手から取り上げると、フワッとそれを羽織ったんだ。
小柄だから、レディースも着れるんだろうな?って思っていたけど、
「腕キツイな……」
やっぱり女物はちょっときつそうで、脱ぐと直人の匂いがジャケットに軽く移りこんでいた。