飲み会 5
「へぇ〜そんで?」
「あっは、バッカじゃんお前!」
「まぁな〜」
「あ、オレ便所!」
…さっきからずっと直人の言葉だけが耳に入る。
レモンとおつまみとワインを買ってたっくん宅に戻った私たち。
あれ以降特にその話題も口にしなかったから、流した方がいいのかと思って私も何も言わずに今に至る。
そもそも私から聞くなんて出来るわけもなく。
普通どおりにみんなと話している直人をなるべくみないように私はたっくんと話していた。
でもずっと直人の声だけが耳に入ってきて。
ちょうどトイレに行ったのをいいことに、私は岩ちゃんに近寄った。
「岩ちゃん!」
私の登場にニッコリ笑顔をくれる岩ちゃんは相当酔っていそうで。
「なになに、ゆきみちゃん!」
私の膝にゴロンっと寝転がって下から見つめ上げられた。
ここここれは、危険だ。
子犬のように見えてもオオカミだって直人お墨付きなのに…どうにも振り払えないものがあって。
そのままダランとしていた私の手をギュっと握ってから、その手を自分の方に寄せて、あろうことか、チュっと唇をつけたんだ。
ポッカン…って口の空いたままの私に嬉しそうな岩ちゃん。
「なぁに?オレに話あるんでしょ?」
「あ、うん…」
「分かった!オレに惚れちゃった!?当たり?」
「え…あ〜…うん。いやいやそうじゃなくてねぇ…」
困ったようにそう言うと反対側にストンっと登坂くんが座って「直人さんのことでしょ?」なんてサラリと言うんだ。
「はい。直人さんの距離が…ってさっき言ってたの、どういうことですか?」
私の質問に対して一瞬迷ったような表情を浮かべる登坂くん。
だからそれが聞いちゃいけないことなのかもしれなくて…
「あの聞かない方がよければ聞きませんので」
「本当は聞かない方がいいのかもしれないっす。でも決めるのは直人さんですから…」
登坂くんの横にいる直己が静かにそう言って。
その言葉の意味すら私は理解不能だった。
何も言わずに話す側の意見を待っていた私に登坂くんが小さく笑って口を開いたんだ。