存在意義2


唯一、私にだけ弱さを見せてくれる直人。

嬉しいんだ、すごく。

ギュッ、ギュッって直人の手を握りながら私は静かに口を開く。



「間違ってないと思うよ直人さん。中止にしたこと。PKCZ抜かしてライブやったとするじゃん?例えばね。あんなことありましたけど、今日は最高の一時を一緒に過ごしましょう!なんて言われても、ファンだって嬉しくないと思うの。むしろその状況でライブできちゃうの?って、ちょっと疑問に思えちゃうかなーって…私ならね」



私の言葉を黙って聞いている直人。




「確かにファンの子は可哀想だと思う。本当にチケット取れなくて札幌しか取れていない人もいっぱいいるだろうし、この日に合わせて全部スケジュール調整してきて、宿だったり飛行機だったりね。でも私、少なからずこの時期のライブだからこそ、チケット取る方も万が一、もしかしたら?って想定して取るべきだって思うよ。自然の力には勝てないし、天候だってどうすることもできない。そーいうことが起こりうるって…なんて言っても実際そうなっちゃったらみんなパニックだろうけど…。でも起きてしまったことは仕方ないし、悔しいのは直人さん達も同じだよね。誰のせいでもないよ、直人さん。それにね、この公演自体取れていない人も沢山いると思うの。色んな事情で。頑張ったけどチケット取れなくて泣く泣く今回のツアーを諦めた人も、本当に沢山いると思うの。札幌ドームだけに留まらずね。今は本当に三代目は人気でそーいうグループで、きっとこれから先も人気は上がると思うし、もっとチケット取れなくなるのかなーって。だけどそれでも今回取れなかった人は次回頑張って取りたい!って思うだろうし、直人さん達もライブ楽しんでやってほしいって思うから、今回の中止のこと背負ってまた頑張って欲しいな…。ちゃんと分かってるファンも沢山沢山いるから…」

「ゆきみ…」

「ん?」

「…サンキュー」

「お礼を言われることは言ってないと思うけど?」



だって私、やむを得ずなこの状況を不謹慎ながら喜んでいるもの。

クリスマスに直人と過ごせるなんて、夢みたいって。

でもそれはやっぱり口に出しちゃいけない気がして飲み込んでおくね。

いつだって強くあろうとしている直人だけど、人前で決して弱さを見せない人だろうけど、だからこそ頭の中で考えて葛藤しているんだって思う。

それは勿論リーダーだからっていう責任感もあるだろうけど、直人自身の性格もそうある人なんだって思う。



「マジでいい女、」

「ふふふ。嬉しい」

「こんな俺をいつだって受け止めてくれて背中押してくれて、ホントありがとう…」

「直人さん」

「みんながゆきみみたいなファンだったらいいのにな…」

「え、やだ!困る!」

「なんで?」

「だって全員直人のファンになっちゃう!そんなの絶対イヤ!」



ブッて直人が吹き出した。

あ、やっと笑った。

ちょっとホッとした。

ギュッと腰に回していた手を剥がしてくるりと身体を回転させた。

正面に直人。

その顔はいつも通りのドヤ顔…



「100%俺だけ?隆二とかナンパーかいるんじゃねぇの?」

「…え、いない」

「どうだか」

「120%直人だけだよ」

「健二郎は?」

「2%ぐらい?」

「うおおおおおおおおおいいいっ!!いるじゃねぇか!」



そう言ってギュッと正面から抱きしめる直人。

あは、いつもの直人だ。



「やっぱり私、笑顔の直人さんが好き!」

「え」



急に言われてキョトンと私を見つめる直人。

その眉毛はちょっとだけさがってる。



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