いつか…1
「ただいまー」
ちょっとだけ疲れた声の直人が家に帰ってきた。
週末大阪でのライブだった直人は120%出しきって帰ってくるのは分かってる。
それに今夜未明から台風だからって、仕事を終えた私は早々に直人の家にやって来た。
予め買っておいた食材で軽くオツマミを作った。
きっと色んな人にお祝いして貰うと思うし、お酒で大丈夫だよなって思って直人が帰ってくるのを待っていたんだ。
「直人さんお帰りなさい!」
「ゆきみ、ただいま。台風大丈夫だった?」
リビングから廊下に迎えに行く私をその場で軽く抱きしめる直人。
安心できる温もりと直人の香りにギュッと抱きつく。
「ふっ、なに?寂しかった?」
耳元で低い声でそう言う直人は見なくても分かるだろうドヤ顔に違いない。
プライベートでも変わらずドヤ顔を飛ばす直人はテレビの前でも家でもさほど変わらない。
ただ時々物凄い甘えん坊なところがあって、すごく可愛いんだ。
「寂しかったよー。大阪でメンバーとファンの人にお祝いして貰ったの、私も行きたかったなぁーって。直人さんの幸せそうな顔は、何回見ても飽きないもの!」
「嬉しいこと言うねぇ。でも、ゆきみにしか見せない顔、今日はいっぱい出すから許して?」
「うんっ!直人さんっ、逢いたかった!」
「俺も。こっち向いて…」
顔を上げたら迷うことなく唇が重なる。
チュッて何度も何度も……
直人これスイッチ入っちゃうんじゃないの?って思った瞬間、腰を抱いていた腕が背中まで回ってゼロセンチの距離を埋める。
途端に舌がニュルリと入り込んで絡まる。
「ンッ直人…」
「やべぇライブ後だからちょっと身体おかしいかも…。キス止まんないっ…」
激しく舌を絡み取られて何度となく濃厚なキスを繰り返す。
ここんとこバタバタしていて一ヶ月近く逢えていなかったこともあってか、直人の煽りは止まんない。
ハアッて甘く吐息を零しながらも、キスを止められなくて。
本当にこのままここで抱かれるんじゃないか?って思った頃……「あーごめん。まじでごめん、ふぅ、落ち着け俺…」ボソボソ呪文のように唱えると、ようやく私を離した。
「いいよ?直人さんの好きにして。私だって逢いたかったし、抱きしめられたかったよー」
「そう?んじゃシ…―――――ねえって、まだ!」
「まだ?」
「そ。まーだ!だって明日何の日か知ってるっしょ?」
「何の日?」
「こら!」
「てへへ、ごめーん。ケーキあるの!蝋燭つけてお祝いしよ!準備するからシャワー浴びてくる?」
「うん、そうする」
間もなく日付が変わろうとしているから、私は冷蔵庫の中からスティックサラダなバーニャカウダーとシャンパンとナッツをリビングルームに運んだ。
外は大嵐のような唸りをあげて大粒の雨が窓を叩きつけていて、いつもは綺麗な夜景もぼんやりしていた。
明かりを消して蝋燭の日だけで直人を待つことにした。