守りたい5


「あ、直人さん!」

「どうした?何かあった?」



吃驚しつつも私を心配する言葉が届く。

相変わらず優しいな〜なんて思いながらも私は首を横に振る。

一応辺りを見回してパパラッチを確認するけど、とりあえず大丈夫そう。



「直人…」



フワっと直人の背中に腕を回して抱きしめた。



「…ゆきみ?」



お酒と煙草の匂いがいっぱい沁みついた直人の身体。

抱きつく私を片手で抱き返す直人はきっと困惑している。



「聞いてくれる?」



耳元で小さく言うと「うん…」遠慮がちに答えた。



「この前聞いたでしょ直人さん、俺の居場所ってどこ?って…」

「…あー…うん」



ちょっとだけ気まずそうな声に私はポンポンって直人の背中を叩く。

大丈夫だよって意味を込めて。



「EXILE NAOTOの芝生に私が入ることはやっぱりできないと思うの。酷いかもしれないけど、直人さんが戦うべき場所だと思うから。でも…片岡直人の居場所は…一ノ瀬ゆきみの傍だよ。いつだってどんな時だって、離れた場所に居たとしても、片岡直人であれば、私の心も身体も直人だけのもの。直人は…誰にも触らせないし、笑わせない。他の誰にも渡さない!」

「…うん」

「重たい?迷惑?」

「全然。すげぇ嬉しい…」

「よかった。じゃあ帰ろう、私達の居場所に…」

「…ああ」



スッと離れた私を、今度は直人の方からギュっと抱きしめた。

まるで縋りつくみたいに、弱弱しくもギュっと私の肩に顔を埋める直人の頭を優しく撫でた。

言葉はないけど確かに伝わったよ、直人からの「愛してる」……






「あのぉ…」

「へ?」

「すいません、自分疑って!!直人さん、ヤバイっす自分も彼女欲しいっす!!」



話しかけてきたのはメンディー。

うわっ!!って、慌てて二人で離れたけど。



「しかもなんすか!その彼女さんの待受!!チューしてるじゃないっすか!!もー自分お腹いっぱいですっ!」

「え、待受?」



直人の視線が私に飛んできて。

しまった!と思いながらも「証拠ありますか?って聞かれて……」あの日、直人がすり替えた私の記憶。

ロックかけてるから誰にも見られることないって思って待受にしちゃったんだけど。



「見せもんじゃねぇぞ、メンディー!」



ずっとずっと直人のが小さいのに偉そうに威嚇する直人が可笑しかった。

そんな直人に「いやだって信用できないじゃないっすか?」って泣きそうな顔で見下ろすメンディーもやっぱり可笑しい。



「HIROさんにはもう伝えてあるから。後輩にもそろそろちゃんと紹介しないとだな。今度こっちの打ち上げ行くか」

「うんっ!!そしたら私もマツさんにキスされるかなっ!?」

「……はい?ちょっと聞捨てならねぇんだけど?」



ギロって直人の眼球が怪しく光る。



「だってキス魔でしょマツさん!私も狙われるんじゃない?」

「いやいや、さすがに彼女にはしないだろ!つーかなに?したいの?」



ムスッと低い声でボソッと聞く直人がたまらなく可愛い。



「うんっ!!」

「うおおおおおおおおいいいっ!!させねぇぞっ!」



いつもの直人らしく雄叫びをあげて私を追いかける。

出てきた時、やりきれない顔だったから少なからずあまり楽しい会ではなかったんだって分かった。

だから私を見て直人が泣きそうになったことも。

何があったのか私に言うことはないかもしれないけど、それが直人の強さだと思って私は受け止めたいって思えた。

言葉にして伝えないとダメな時は沢山ある。

伝えないと解決できなかったり、伝えないと壊れてしまうような小さなものも、日常にありふれている。

全部を伝えないとダメなことでもないけれど、私は直人に正直でありたい。

苦しい気持ち、嬉しい気持ち、悔しい気持ち、大好きな気持ち……数えきれない程の愛も苦しみも、一緒に分かちあっていきたいんだ。

「大好き」を伝えるのも、「助けて」を伝えるのも同じくらい信頼できる関係でいたい。

そしてできるのなら、直人が1人で苦しみを抱えないような、頼れる彼女でありたい。

それが自然にできた時、きっと私達はまた一歩未来へと近づいた証だよね。

今でも十分幸せだけど、もっと大きな幸せがあるって信じて、これから先もずっと私が直人を守りたい。



「直人さん、ほらタクシーきた!行くよ?」

「おう!じゃあなメンディー!」



小走りでタクシーを捕まえた私の所まで来ると、スッと手を繋いだ。



「おっちゃん、いつものコースで!」



ニカッと八重歯を見せて笑う直人と私と、いつものタクシーの運転手さん。



「お前ら相変わらず仲いいな!全く羨ましいぜ!」



おじさんの言葉に微笑みあって後部座席に乗り込んだ。




*END*

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