常夏 4


「直人さん…」

「んー?」

「直人さん!」

「なによ?」



振り返らない直人に後ろからキュッと腕を回してその大きな背中に顔を埋める。

ギュッと抱きつく私を肩越しに「こらこらみんな見てるって!」そう言うものの直人が私を離すこともない。

今に限ってメンバーもみんなからかうことなく黙って見守ってるのか誰一人口を挟んでこない。

ねぇ直人。

私達、すごい恵まれてるね。



「ありがとう、直人…」



私が言うと「おう」低く答えてくれる。

私が思うよりも私のことちゃんと気にかけてくれていたんだって、すごく嬉しい。

もしも面と向かって言われていたら、もしかしたら私は強がって「大丈夫」そう言っていたかもしれない。

でも実際そばにいる2人を見たらやっぱり絶対にモヤモヤしていたんだと思う。

あの日まで全く私の気持ちに気づくことのなかった直人だからこそ、強く私を第一に考えてこうしてくれたんだって、分かる。

どうしよう、直人が大好きすぎて溢れる気持ちが抑えられない。



「直人さん…」

「んー?」



さわさわと腕を動かして直人の腹筋をあがっていって…



「ちょっとおっぱい触らせて!」

「…って、うおおおおおおおおいいいっ!!なんでやねんっ!」



クルリと振り返る直人が眉毛を下げて私の前髪をクシャっとする。

その瞬間楽屋の中に爆笑が起こった。



「それ直人さんの台詞っすよね!?」



健ちゃんが着ているsevenのシャツを指さして笑っていて。



「直人さん安心しましたよ。てっきりゆきみさんに愛想つかれてお預けくらってんのかって心配しとったんすから、これでも!」

「んなこたあるかいっ!俺を誰だと思ってんだよ!な?」



それ私に聞く?

イエスもノーも答えずらいじゃんね。

でも……



「健ちゃんご安心を!直人さんはドラマで物凄い疲れていても、そこは別腹みたいだから!」

「いやいや、さすがに恥ずかしいから!」

「でも本当のことでしょ?」

「まぁ否めないけど。大丈夫?」



私の頬に指でなぞりながら聞かれて。

こんな甘い空気、家では当たり前だけどメンバーの前ではなるべく見せないようにしている直人。

だからこの展開にドキドキする。

私の両頬を手で包み込んで顔を寄せるから触れ合いそうな距離に顔を寄せるから…「直人…」目を閉じるとそのまま直人の手が私の頬をムニュっとマッサージし始めた。

慌てて目を開けるとニヤっと口端を緩めて。



「あれ?チューだと思っちゃった?」



得意気なドヤ顔でそんなことを言われた。



「…もう、ばかっ!」

「はは、どう?お預けくらった気分は!」

「もうもうっ!恥ずかしいっ」



直人の胸板に顔を埋めると嬉しそうに笑いながら私をギュッと抱きしめた。

バタバタする私に「Mステ終わるまで待ってろよな」なんて甘い誘惑。

むず痒くなるぐらい甘く私を愛してくれる直人に、今更ながらメンバーが「熱い、熱い、常夏だよ、ここだけー」言い出す。



「今日は特別!たまには許せ、お前ら!」

「いやいや直人さん、たまにはじゃないです。わりと毎回常夏っすよ!」



臣くんがポンッて直人の肩に手を乗せるとまた爆笑が起こる。



「あたしは見慣れてるけど!ゆきみと直人さんの常夏なんて!」

「えっ!?奈々ってば!」

「ゆきみは甘えただもんねぇ!」



意味深な奈々の言葉に直人は「ちょっと待って奈々ちゃん!それ聞き捨てならねぇ!」臣の後ろからひょっこり顔を出した奈々は「学生の頃からずっとねぇ」って笑うんだ。



「おいおい俺その昔話あんま好きじゃないのよ!だって元カレとかって勝てないじゃん」



直人がムゥッて口を尖らせて言う姿が可愛くて。

奈々と目を見合わせて笑うと、二人一緒に言葉を繋いだんだ。



「「とっくに勝ってるよ、直人さん」」

「え、そう?」

「デレデレすぎっすよ!」



みんなに突っ込まれて笑いの溢れる楽屋。

そこに直人がいて奈々がいて、メンバーがいて。

私もそこに入って一緒に笑いあえるその現実が嬉しい。

この先また何かがあったとしても、直人とだったら乗り越えていけるって小さな不安が確証に変わった。

やっぱり直人はいつでも私のヒーローなんだ。

こんなに大好きな人にはもう二度と出逢えないと思う。



「だから、たまには許せって!」

「「「「「いつもっすよ!」」」」」



みんなの声が重なって、それを見守る直己に私も奈々も笑いあった。

今夜の片岡邸も、常夏間違いなしかな。




*END*

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