常夏 3


そんなことがあったこの日、直人は私に次のMステの時、楽屋に来るようにって言われて。

ヘアメイク兼、メンバー臣くんの彼女である私の親友奈々と一緒に、テレビ朝日であるミュージックステーションの楽屋に顔を出した。




「うわおっ!!ゆきみちゃんっ!!」



私を見つけるなり、お約束のように飛びついてくる岩ちゃん。

子犬の着ぐるみを着た、中身が狼の岩ちゃんの腕の中にすっぽりと収まる私を直人がパコンと剥ぎ取った。



「俺の俺の!俺いなきゃゆきみここに来ないから!」

「えー?俺に会いに来たんじゃないのぉ?ゆきみちゃん」



椅子に座って私を見上げる子犬岩ちゃんは、牙を剥き出しにしているようで。

思わず手を差し伸べたらガブッと噛まれるから慌てて引っ込めた。



「直人さんがたまにはって」



そう言ったら臣くんが「素直じゃないっすねー直人さん。ゆきみさん呼んだ理由言ってないんだ?」なんて言うんだ。

だから、えっ?って直人を見るけどスッと目を逸らされて。

奈々も私と同じでキョトンとした顔で見ていて。

直人の意図を分かっている臣を見つめるけど「哲也さんに怒られるって」言われたところでてっちゃんの名前が出てきてますます分からなくなった。

でも次の瞬間、それがすぐに分かったんだった。


コンコン。

ここ、三代目の楽屋を叩く音にみんなの視線がそっちに向かう。

手前にいたELLYがガチャっとドアを開けるとフワッと明るめの色彩が目に入る。

ドクンと心臓が音をたてた瞬間、直人が私の腕を掴んで自分の前に立たせる。

でもそれはドアとは反対側、鏡の前で。



「これやっぱ変じゃない?」

「え?」

「このジャケットにはこっちのアクセのがいいよな?これ俺らの家に持って帰って。それかお前がつける?つけてやるよ、こっち向いて」



クルリと身体を回されて直人が私を真剣に見つめている。

首に腕をかけて私に直人が外したアクセサリーをつけると「直人さん」ELLYの声が彼を呼んだ。

私をニッコリと見つめたまま直人が私の肩に腕を回したまま視線を向ける。

そこにいたのはあの映画で直人とそうなった子で。



「こんばんは。ご無沙汰しています!」



深く頭を下げた。

一瞬キョトンとした直人はハッとしたように「あーどうも!」外向きの声で笑った。



「そっか、今日一緒だったんですね!頑張ってください」

「はい。NAOTOさんたちも。じゃあ失礼します」



そう言いながらも彼女達の視線は私に注がれていて。



「ラブラブっしょ!悪いんだけど遊びじゃないから誰にも言わないでね?頼むよ?」



岩ちゃんがELLYの後ろから彼女達にそんな声をかける。

その言い方で分かる、私と直人が真剣に付き合っていることが。

彼女が直人とどーのこーのって気持ちはないのは分かる。

だけどきっと画面越しに共演している2人を見たら、私がまた嫌な気持ちになるんじゃないか?って思って今日ここに連れてきてくれんだって、分かった。


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