再会 3


「え?あれ?」


言葉を口にしたら本当に泣いちゃいそうで、無言で首を振るけど、やっぱり涙が我慢できなくて。


「うそ、オレ?!…参ったな…」


ポンッと一つ、直人の手が私の髪に触れたんだ。

触れた手は、男の人にしては小さいけど、温かくて。


「これは、嬉し涙です、直人さん…」

「…弱いんだよ、女の人の涙に…」

「ごめんなさい、本当に私ごとき一般人のこと、そんな風に思ってくれたなんて、考えるだけで嬉しくて…」

「ごめん、傍にいてあげたいけど、マジでもう行かなきゃだ、オレ」


もう一度ポスッと直人の手が私の頭に落ちて。

私の頭をほんの少し押されて…


「あのさ…下の名前教えてよ?」


そう言われた。

なんでそんなこと聞くの?

なんて疑いの心よりも、名前を聞かれたことの喜びの方が大きくて。


「ゆきみです。一ノ瀬ゆきみ」


小さく答えたんだ。


「ゆきみちゃんね。…」


直人は私を離すとゆっくりと視線を絡めて。

その顔にほんの少し迷いが見えた気がした。

何かを言いたいのか、言えないのか…

そんな感じに。

でも、ふわっと笑顔を作るとスッと手を出して言ったんだ。


「言っとくけど、こーいうの初めてだからね?」


何の断りなのか?さっぱり分かってない私に「携帯ある?」そう言うんだ。

よく分からないまま直人にスマホを渡すと、電話番号を押して通話ボタンを押した。

でもすぐに切って…


「直人さん…?」

「オレのプライベートの番号。電話して。liveも席取ってあげるから。つーか、ゆきみちゃんに見てもらいたいから」


信じられない。

直人が電話番号教えてくれた。

そんなことって、ある?

軽い放心状態のまま私はスマホをじっと見つめて。

直人は私がこの番号をいいように使うとか思わないのかな?

もちろんそんなことする気は、さらさらないけど。


「嬉しすぎて禿げそうです私」

「え?あははっ!やっぱ面白しれぇ、ゆきみちゃんって」

「直人さんありがとう」

「出れない時もあると思うけど、話し相手ぐらいいつでもなるから!かけてよ…」

「はい」

「うん。じゃあ悪い、行くわ」


直人はサングラスをスッとかけると、私を振り返ることなくお店から出て行ったんだ。


「…優しい」


でも、この優しさを独り占めしたいなんて思っちゃダメだよね。

分かっているけど、動き出してしまった直人への気持ちを止める術なんて、私には全く分からないんだ。


- 9 -

prev / next

[TOP]