宝物 4
「酔った?」
直人の部屋の鍵をカチャンと閉めた瞬間、そんな心配声。
私を見つめる直人の瞳は酔っているのか少し潤んでいて。
お酒は飲んだし、とても楽しい一時だったけれど、意識はハッキリしていて。
だから首を左右に振る私を見てフワリと微笑んだんだ。
そのまま私の頭をポンポンってすると「シャワーする?」そう言ってリビングから一歩出て行こうとして。
「直人っ……」
後ろから直人の腰に腕を回してギュッと抱きついたんだ。
勿論ながら直人の脚は止まって、すぐに腰に回した私の手に自分の手を重ねた。
「なぁーに?」
優しくちょっとだけ嬉しそうにそう聞き返す直人。
だけど私は胸がいっぱいで。
一言でも発したら泣いてしまいそうで。
「ゆきみ?」
無言の私に視線を移すようにチラリと肩越しに直人が私を振り返る。
「直人さん好き……」
「えっ?どうした急にっ?」
半笑いみたいな緩めの直人の声色。
大きな背中に顔を目一杯埋めて直人に言った。
「……愛してるよ直人……」
いつか言いたい、そう思ってたいたこの言葉。
しっかり伝わるシチュエーションで言いたいと思っていたこの言葉。
それが自然と口をついて出てきた瞬間だった。
ギュッと更に強く直人の背中にしがみつく私の手を剥がす直人。
「こら」
小さくそう言う。
クルリと身体を反転させられて正面の直人と目が合った。
少し困ったように眉毛の下がった直人の表情に私は目すら逸らせなくて。
ゆっくりと両頬を温かい手の平で包み込まれてそのまま顔を上に向けられる。
「俺の目見て言ってよそんな大事なこと」
ムニュって私の顔を潰してそんな甘い囁き。
でも直人の顔を見たらやっぱり堪えていた涙が込み上げてきて。
だけど直人がそれを望むならちゃんと直人に伝えたいと思うんだ。
溢れる涙を一つ一つ指で拭ってくれる直人を真っ直ぐに見つめて私はすぅーっと息を吸い込んだ。
「愛してる、直人……」
ゆっくりハッキリと目の前の最愛の人にありったけの想いを伝えた。
ほんの一瞬顔を歪ませた直人。
一度瞬きをした次の瞬間、びっくりするくらい強く直人の腕に抱きしめられる。
背中に回した直人の腕が何度も私をきつく抱き寄せる。
もう何も入る隙間がないってくらい強く。
服が擦れる音が耳に入って、それから直人の息遣いが傍で聞こえる。
この温もりを私も一生守り続けたい!そう思うんだ心から。
「愛してる、ゆきみ」
直人の口から吐息混じりに出されたその言葉に涙がぶわっと溢れた。
「一生大事にする」
「直っ……」
「ゆきみと出逢えたことが俺の奇跡だよ」
「……ううっ」
「1ミリも渡さねぇから、ゆきみの心誰にも!俺以外は入れさせねぇっ」
直人の想いが、直人の気持ちが私と同じで嬉しくて。
少なからず遠慮していた気持ちなんて、全部無くなった。
私が直人を想う気持ちそのまんま、直人は私に返してくれる、そんな人なんだって。
改めて気づいた。