宝物 1
「ズルイ!!ズルイ!!ズルイよ、直人さん!!!」
ソファーでふんぞり返って笑っている直人に向かって大声で怒鳴ってやった。
まだ笑いながら時計を見て視線を私に移した直人。
口端を緩めてどら焼き形の口を大きく開けた。
「ほら、早くしねぇとてっちゃんとウサさん待たせることになるよ?」
「美容院だってネイルだって行ってないのに!今日の今日言うなんてズルイ!もっと可愛くしてから行きたかったのにっ!」
文句を言いながら着替えを持って洗面所に向かう私に「やっぱシャワー浴びるんじゃねぇか!」これまたちょっとだけ笑いを含んだ、でもちょっとだけ腑に落ちないような直人の声が届いたんだ。
そう、ことの発端は家に帰ってきた直人が発したこの一言。
「今日これからてっちゃんとウサさん時間あるみたいだから、ゆきみのこと紹介するわ。話つけてきたから準備して!」
ポカンとしている私の髪をふわっと撫ぜて「そのままで十分可愛いよ」…軽くチュッと唇を重ねる。
誤魔化された感満載である。
絶対に私が油断しているのを分かっていて今日の今日言ったんじゃないかって。
せっかく直人の次に好きなてっちゃんと、その次に好きなウサに逢えるっていうのに、もっと奇麗にしていきたかった。
そう思ったけれど、私の恋人は片岡直人で、だったら直人が言った「そのままで十分可愛いよ」って言葉の方が本来嬉しいんじゃないかって…シャワーを浴びることで少し冷静さを取り戻したんだ。
そうしたらもう、残っているのは緊張の二文字だけで。
直人に初めて逢った日は勿論緊張したけれど、ハプニング続きだったせいか、あまり感情がなかった気がする。
でも今回は違う。
あのEXILEのTETSUYAとUSAにこれから逢えると思うと心臓が壊れそうなくらいバクついていて。
しかもNAOTOの恋人として私を紹介してくれるだなんて…
「どうしよう、泣きそうで吐きそうなくらい緊張…」
二人でタクシーに乗ってそう言うと「いやいやいや、何か俺んときより緊張してない?」ちょっと不満気な声が返ってきた。
「なに、俺ん時って?」
「…俺ん時っつったらアレよ、アレ!」
直人の言ってることも半分ぐらいしか頭ん中に入ってこなくて、正直帰りたくなってしまう。
でもそんな直人のメンツぶっ壊すようなことは死んでもできるわけもなく…
タクシーの中で大きく深呼吸を繰り返す。
「彼女、アレん時っいうのは、彼氏と初めて…の時なんじゃないかい?!」
いきなり言われて、ミラーを見ると「「あの時の!!」」思わず直人と声が揃ってしまう。
前に直人と私を乗せてくれたタクシーの運転手さんだった。
「そうっすよ、運転手さんよく分かってらっしゃる!」
「NAOTOも男だからな〜そこは譲れないだろう?」
「本当っすよ!こいつ俺のこと大好きなはずなのに、メンバーに気持ってるから危なかしっくて」
「はは、目が離せないってか?」
「…まぁ、そうっすね」
…照れる、照れる!!
直人、なんだかんだで私のこと甘やかしてくれる発言とかしちゃうから聞いてる私のが恥ずかしくて…
でも素直に嬉しいんだ。
だからまた少し冷静さを取り戻した。
「直人さんとの時が一番緊張した…うん、本当だ。でも緊張する〜」
「あ、お前!この口か、いらんこと言うんは!塞いでまうぞ!!」
「キャーSCANDALされちゃう!フライデーされちゃう!私目の上黒い線引かれちゃう!!」
バタバタしている私を見て直人がフワって微笑んだんだ。
そのまま運転手さんと少し話していた直人だけど、私の手をキュって握っていてくれて、それがすごく安心できたなんて。