男の勝負 3
「直人くんっ!?」
私がそう言う声と「やっぱ無理!」直人くんがそう言う声が被って。
簡単にてっちゃんから引き離された私は既に直人くんの腕の中にいる。
走ってきたせいで、物凄い直人くんの心臓がバクバクしていて、それが少し心地いいんだ。
「ダーツは負けたけど俺、ゆきみちゃんを好きな気持ちは哲也さんにも負けないっす!だから持ち帰りさせない!」
乱れた呼吸と共に吐き出された直人くんの気持ち。
ドクンっと今度は私の胸が高鳴った。
何だかふわふわして夢を見ているみたいで。
真っ直ぐな気持ちを伝えてくれた直人くんがすごく愛おしい。
「ふうん…俺から取るんだゆきみを」
「取ります!全力で奪います!」
「んじゃやるわ!直人にゆきみ。俺からの誕生日プレゼント!」
ゴソゴソとスーツのポケットから取り出したのはクラッカーで。
てっちゃんはそれを空に向けて放ったんだ。
「誕生日おめでとう、直人!大事にしろよ、ゆきみのこと!」
完全に拍子抜け。
ポカンと口を開けた直人くん。
もしかして、誕生日忘れてた!?ってくらい、目を大きく見開いていて。
フラリと一歩後ろに下がった直人くんの眉毛は困ったように下がっている。
「え、誕生日…知ってたんすか?」
「当たり前だろ」
答えるてっちゃんに直人くんが更に眉毛を下げて…「もしかして、最初からくれるつもりだったんすか?」そう聞いたんだ。
てっちゃんはニヤって口端を緩めて「内緒だよ」なんて言葉。
あくまで自分の気持ちを見せようとしないてっちゃんは私が見ても大人で。
そんなてっちゃんが直人くんの背中をパシっと叩いた。
「ひでぇ顔すんなよなっ!俺直人のことも大好きなのよ!だから喜ぶ直人が見たかった…なぁ〜んて!」
照れ隠しなのか、てっちゃんの言葉は少し浮いて聞こえる。
てっちゃんが私に本気だったのかなんて私には分からないけど、好きな人の喜ぶ顔が見たいって気持ちは、できれば持ち続けていたいものだ。
それを素直に実行できる大人はこの時代には少ないんじゃないかとすら思えて。
「俺を選ばなかったこと後悔したんじゃねぇ?ゆきみ今…」
まるで見透かしたような台詞が飛んできた。
「それも計算済み…なんじゃないの、てっちゃん」
だからそう言ってやると、長くて奇麗なてっちゃんの指がスッと私のオデコを突いたんだ。
「俺の心を読んだ女はゆきみが初めてだよ、全く。ほらそろそろ行けよ、せっかくの誕生日、二人で過ごせって…」
そう言って今度は私の背中を押した。