▽ キスの相図
まさかの不意打ちのお障りにニヤケを通り越してビクっとした。
うわぁ、こんな風にコイツのこと触られるなんて…
「生きてて良かったわ俺…」
「ぷっ、なぁにそれぇ?」
「いやだってね…。って心ん中の声全部言うたら俺、ユヅキちゃんに嫌われるんちゃうかな…」
ちょっと苦笑い気味で小さく呟く。
ほんまにそんなことになったら…生きていかれへん。
そんな俺をよそにユヅキちゃんはジーっと下から俺を見つめとって。
「だいたい分かった」
そんな言葉を投げた。
「え、ほんまに?」
「うん。嫌いにならないよ、そのぐらいじゃ!」
そう言って俺の腕を引っ張ってギュっと身体に抱きつく。
フワリと甘い香水が漂って、柔らかいユヅキちゃんの身体の感触に鼻の下が1メートルぐらい伸びたんちゃうかな…って思えた。
「ねぇ腹筋割れてる?」
「…はえ?」
「腹筋…」
何故かそう言うユヅキちゃんは俺の服の上から腹を撫でて…
「割れてへんかったらあかん?」
「うん!」
「えええっ!!!さ、三週間待って!絶対割るから!」
「あっは、三週間我慢できるの?健二郎くんが…」
言われて考える。
現時点での俺の脳内は真っピンク一色で。
今更このピンクがグレーに変わってしまうなんて…
「た、耐えられへん…」
しょぼぼぼぼって、なんや俺のコイツまでしぼんでしまったんちゃうかって思えた。
どないしよー…
そう思っていると、ポーンってエレベーターが目的の階について。
「あ、とりあえず部屋入って」
抱きついているユヅキちゃんの頭をそっと撫でると「うん」俺を見てニッコリ笑った。
スタスタ先を歩く俺に「ストップ!」後ろからデカイ声で言われて。
振り返ると、ムスっとした顔のユヅキちゃん。
「手…どうして離すの?」
「え?手?あああ、手ぇ、ごめん!」
スッとユヅキちゃんの手を取ると「よし!」プウ〜って息を吐きだす。
ああ、一々手繋いどかんとあかんねんなぁ、女って。
臣ちゃん隆ちゃんならうまく自然にエスコートするんやろうな…ってちょっとだけあの二人を感心した。
「俺、ほんま疎いねん、こういうこと。けどそれも卒業したい!全部俺に教えてや?」
恥を承知でそう言うと「可愛い…」ペロリとユヅキちゃんが自分の唇を舌で舐めた。
その仕草がむっちゃエロくて…
「分かる?キスの相図…今のだよ?」
「…うん」
まるで捕らえられた蝶みたいに俺はユヅキちゃんの唇に吸い寄せられた―――。