▽ 経験不足な悔しさ
こんな時間に訪ねてくる迷惑な奴なんて2人ぐらいしかおらへんやし。
「臣ちゃん、隆ちゃんちゃうか、たく。ユヅキはその格好やし、そこにおって」
「はーい!朝ご飯準備しておくね?あ、あの2人の分も作った方がいいのかな?」
「いらへんそんなん!」
グイッてユヅキの首に腕を回してチュッと小さくキスをしてから俺はドカドカと玄関まで歩いて行ってドアを開けた。
「何のようや、臣、隆二!」
ドアの前、そこにおったんは臣でも隆二でもなく―――――「は、何してんのや、お前…」同じマンションに住む同期の女やった。
俺を見て眉毛を下げてから、その視線をリビングへと移す。
鼻歌を歌って朝飯作っとるユヅキがおって…
いや、姿は見えへんけど。
「…なに?なんか用?」
「…なんでよ、あんな女。なんであんな女に捕まってんの?」
「は?あんな女?ユヅキんこと言うてる?」
「そうよ!あんな女なんかよりあたしの方がずっとあんたのことすっ」
ドンッ!!
壁にこいつを押し付けた。
「やめや。お前に彼女の事言われる筋合いはない。それ以上言うならほんまにシバくで」
「………最低」
パチンっと頬に平手打ちをくらって同期は泣きながら出て行った。
「…なんやったん」
胸糞悪いやん、たく。
リビングに戻ると俺ん顔を見てユヅキが目を大きく見開いた。
「もしかして、同期のあの女?」
それから静かにまるで分かっていたかのようにそう言うた。
「え、あの…」
「私の方が好きだったのに?とか、言われちゃった?」
「いやその、それは言わせんかったけど…」
「けんじろー嘘つけないんだねぇ、ほんとに!」
こんなくだらない事でユヅキを失うのは御免であって。
けどなんて言うんがええんかさっぱり分からずな俺。
結局のところ、こーいうことも経験不足な俺には何の対処法もあらへんで。
「叩くなんて酷いね…赤くなってるじゃん、健ちゃんおいで」
ふわりとユヅキが俺を抱きしめた。