黒沢探偵事務所


夜、直人と揃って事務所に顔を出した。



「遅刻か、直人」

「すいません…」



哲也にジロリと睨まれて頭を下げる直人。

嘘みたい、こんな景色。

この事務所の中に直人がいるなんて。

私達を見て剛典がニッコリ微笑んだ。

臣はソファーで膝を抱えてブスッとしている。

啓司はちょっと呆れた顔で臣の隣でドカッと足を開いて座っていて。

アキラが私達を見て優しく微笑んだんだ。



「アキラ、ありがとう…あの、みんなも、ありがとうございます」



頭を下げる私に隣の直人も一緒に下げてくれた。



「なんのことだよ?」



眉毛をピクリと上げて私達を見るアキラ。



「直人と、私の記憶……」

「記憶は消した。お前ら二人の愛が勝っただけだろ?な、哲也?」



哲也は壁に寄りかかって珈琲を飲んでいて「ああ」一言そう言うんだ。

哲也の表情をジーッと見つめる私にクスっと笑うと「自惚れすぎだぞ、バーカ」って。



「俺より広臣のが重症じゃない?」



チラッてソファーで膝を抱える臣の所に行って膝まづく私を、ほんのり顔を上げて涙目の臣。



「俺のユヅキが、直人のもんになってるし。納得いかねぇ!」



直人呼びしてる臣がちょっと可笑しい。

臣の膝に手をついてギュッと抱きしめる。



「臣のことも大好きだよ」

「じゃあ前みたいに一緒に寝てよ?」

「直人がイイって言ったらね?」



回答権を投げたものの、直人はブンブン首を横に振っている。

眉毛を下げて困惑した表情を見せる直人は、どら焼き形の口をゆっくりと開く。



「そこは断固拒否。ユヅキちゃんのことだけは譲れないから!」

「直人さんならそう言うと思ってた!」



私の言葉に嬉しそうに八重歯を見せた直人に、チッて思いっきり臣の舌打ちが響く。

そんな臣に苦笑いを見せて「ごめんね」って。

でもその後小さく溜息を零す。

苦笑いで私に視線を移した直人は、ほんのり首を傾げた。



「もしかしてみんな?みんなユヅキちゃんと…?」

「そうそう、俺もね!」



剛典が爽やかな笑顔を飛ばすけど、複雑そうな顔の直人。



「俺は抱いてねぇよ?」



啓司の言葉にホッとした顔を見せた直人はチラリとボスを見つめる。



「当然抱いてる!じゃなきゃ直人と出会うミッションもやらせてねぇ。けど今後はユヅキの為にそのミッションはやらねぇよ。その代わり、一生かけて幸せしにろよ?少しでもユヅキが悲しむようなことがあれば、その時は俺達全員お前の敵だからな?」



アキラの低い声。

威圧的な威嚇するようなド低い声にすら直人は動揺一つ見せない。

この人は本当に強い人なんだって思えた。



「もちろんです。二言はありません」



もう嬉しくて。

直人にギュッて抱きつくと、ふわりと抱きしめ返してくれる。



「ユヅキちゃん?」

「直人、大好き」

「俺も…大好きだよ」



見つめ合ってニッコリ。

後ろで聞こえた臣の舌打ちと文句も耳に入らない。

大好きな人達に囲まれて、私は直人と愛を育てていこうと思う。

ここ、黒沢探偵事務所で。



*END*

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