独り言


【side ユヅキ】


「待って…」

「え?」

「だって私、3キロも太ったの。や、痩せてからじゃダメ?」



…思い出の片岡邸は本当に無くなっていて、ここはそう…私の部屋。

直人は同じマンションに住みついているって。

シェアハウスは部屋数が剛典でいっぱいになっちゃって、私の部屋で一緒に住むことで了解を貰ってはいるらしい…―――

臣が納得したのかは不明だけど。



「どこが太ったの?全然変わってないよ?」



ベッドの上、私を組み伏せている直人は、毎日ジムに通って身体を作っているようで。

てゆうか最初から身体できているのに、これ以上どこをどう作ろうっていうの?

そんな完璧な直人と比べた私はポニョで。



「ダメ、絶対ダメ。見せられない、こんな身体…。三週間待って!絶対痩せるから!」

「…ユヅキちゃん」

「え?」

「ごめん、そんな待てない。つかごめん、もう一秒も待てない」



私に顔を埋める直人。

ダメだ、流される…



「直っ…」

「好きだよユヅキ…」



ズルイ。

そんな風に優しく言われたらポニョでもいいって思っちゃう。

直人に触れられると、何もかも飛んじゃう。

たった一週間なのに、久しぶりに思えたキス。

どこをどう触れても身体が覚えている。



「ユヅキ…」

「ンッ…」

「可愛い…」

「恥ずかしい」

「隠さないで見せて。どんなユヅキでも愛してるよ」

「…ポニョでもいいの?」

「ポニョじゃないって」

「じゃあチビポニョでもいい?」



私の言葉に微笑むと「いいよ。抱かせて…」ふわりと落ちる直人の温もり。

哲也が繋いでくれた直人の温もり―――ずっと忘れない。



――――――カチ。

耳にそんな音がして薄らと目を開ける。

私の上で妖艶に腰を振っている直人は伸びた髪が目にかかってよりいっそう色気をまとっている。

私の横に手をついてほんのり目を細めている直人の口は半開きでほんのり舌が見えている。

赤みがかっている厚めのその舌をジッと見つめていると「キスしたいの?」なんて言葉。

ちょっと嬉しそうに舌を差し出す直人が顔を寄せるからそれを下から舐める。

そのままジュルって吸いこまれる私の舌に絡みつく直人の舌。

…心地いい。

キスをされると愛されてる気分になれる。

もっと、もっと…

ググって首に腕をかけた瞬間、耳元に声が響く。



【直人、仕事だ。今すぐ戻れ!って伝えてよ、ユヅキ】



ガバって起き上がった。

ガチって直人と頭がぶつかって「いって…ユヅキちゃんどうしたの?」涙目の直人と目が合う。

嘘、いつの間に!?

てゆうか、信じらんない!!



「てっちゃん酷いよ!」

【ハハハハハ、怒んなって。これぐらいいいだろ?】

「悪趣味!!」

【もう聞かないって。一番いい所で邪魔してやろうと思って!】

「…もう。せっかくてっちゃんのこと大好きなお兄ちゃんって綺麗な記憶のままだったのに…」

【俺は今でも変わらずユヅキのこと愛してるよ】



ドキンってする。

直人には聞かれていないものの、何だかやましいことをしている気分になってしまう。

微かにあるのは桜の木の下で哲也のありったけの想いを聞いたこと。

何となく、ボヤっとたくさんの愛の言葉を貰った。

だから言ってやる。



「独り言、覚えてるから」



私の言葉に黙りこくる哲也。



【マジで?】

「うんっ!」

【お前、忘れろよ!直人と一緒にこい、記憶今度こそ消してやる!】

「てっちゃんの腕もまだまだなんじゃない?もっとボスに教わった方がいいよ」

【言うね〜ユヅキ、後で覚えてろよ!】

「もう、外すよ!」

【…おう】



カチっとピアスを外した私をマジマジと見つめる直人。



「ユヅキちゃん?」

「ピアス…GPSも録音機能も全部ついてて、これで全部聞かれてた…今までの私と直人さん…」

「そうなの!?うわ…」

「一番いい所で邪魔してやろうって…てっちゃんが」



私の言葉に苦笑いの直人。

チラリとピアスを見て視線を私に戻した。



「もう聞かれてない?」

「うん」

「じゃ、続き…。ごめんね我慢してる余裕ねぇの…」



そう言うなり、私の頬を撫でて直人の腰がまたゆっくりと斜めから付き上がる。

甘い水音と直人の吐息。

漏れる声と、肌が触れ合う音…

五感全てが心地よくて、甘い時間。



ねぇ直人。

幸せだね…。


目があった直人はニコっと笑って「幸せだな」そう言ったんだ。

- 89 -
prev next
▲Novel_top