STAY


ユヅキをおぶって桜の木の下を歩く。

吃驚するくらいに綺麗に散る花吹雪に足を止めた。



「独り言だから、絶対に思い出すなよ?」



眠るユヅキにそう言ってから俺はユヅキへの想いを語り始める。

最初から俺の中で特別だってこと。

初めてユヅキの笑顔を見た時、単純に心が洗われた気がして救われたってこと。

初めてユヅキに触れた時、恥ずかしそうに照れていたこと。

初めてユヅキからキスをしてくれた時は、俺が泣きそうになってたこと。

「てっちゃん」「てっちゃん」そうユヅキに呼ばれる度に、可愛くて頬が緩んで仕方なかったこと。


幸せな日々はこのミッションによって簡単に崩れてしまった。

今まで抑えてきた俺の気持ちさえも簡単にはいかなくて。

ユヅキと一緒に苦しい日々を過ごしていたんだよ、俺も。

数えきれない程のユヅキの姿を、俺は全部忘れずに覚えているから。

笑った顔、怒った顔、楽しい時、嬉しい時、悲しい時、泣いた顔…―――

お前を彩る全てのことが、俺の生きる意味だから。


親に捨てられた俺達が、本物の愛に辿り着けるのはすごいことだって。

それをやってのけたユヅキを誇りに思うよ。

片岡ならユヅキを任せられるから、だから安心して眠れよ。


もしも俺の願いを叶えてしまったのなら、ユヅキの願いは叶えられなくなっちまうから。



「だからここに置いていく…」



人生において、一線を越えてしまった汚い俺の手じゃ、もう抱きしめられないから。

これからはユヅキが一番愛した奴に抱きしめて貰えよな。


嬉しいことも、悲しいことも。

大丈夫、一人じゃないから。

俺はお前の兄として、これからも見守っていくよ。


ふう…息を吐き出してユヅキに視線を送る。

俺の背中に寄りそって笑ってるように見えるユヅキに、微笑みかける。



「…好きだよ、ユヅキ。世界で一番…愛してた―――」



ごめんな、今だけすきに泣かせて。



「……ックソッ…」



止まらない涙を気のすむまで流していた。


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