助けてあげる


【side TETSUYA】


「助けててっちゃん…」



無意識なのかなんかのか、ユヅキの消えそうな声が耳に入った。

直人と離れたくない、直人を愛してる…――声を振り絞ってそう言ったユヅキ。

いたたまれなくて、パチンと指を一度鳴らすと、ガクンとユヅキが意識を手放した。

慌てて片岡がユヅキを抱きかかえる。



「ユヅキちゃんっ!?大丈夫!?ユヅキちゃ……」



姿を表した俺とアキラ。

決着つける時がきたんだって。

俺達を見て「黒沢の人?」静かに聞いた。



「ああ、ユヅキを引き取りに来た。渡して貰おうか」



威圧的なアキラの声にギュッとユヅキを抱きしめる片岡。



「記憶を消したのか?」

「お前には関係ない。安心しろ目覚めたら何も覚えてねぇから」

「あの聞きました、早瀬のこと。彼女はその…」

「それもお前には関係ない。早くユヅキを渡せ」



限界まで頑張ったユヅキは片岡の腕の中で意識を失っているもののその顔は安心したようで少し切なくてでも、幸せそうに見える。

俺はユヅキの人生を背負う覚悟で今まで生きてきた。

これからもそれは変わらないはずだけど、なんだろうか、この空虚感。

アキラに向かって片岡が懇願している。

自分の記憶は消さないで欲しいと。

ユヅキのこと本気で思ってるからユヅキの記憶も消さないで欲しいと。

ユヅキが片岡をどれだけ好きなのかは、分かってる。

初めて感情を見せたユヅキ。

あいつに会う度にどんどん惹かれていくユヅキは、酷く苦しんでいて、俺はただ傍にいてやるしかできない。

このミッションのせいで出会った二人が、マジで愛し合うなんて誰も思わなかっただろう。

ユヅキが本気で片岡に惚れるなんて、思わなかっただろう……



「アキラ…」

「え?なんだよ?」

「ユヅキを幸せにしてやろうか」

「……哲也?」



助けてあげられんの、俺だけだよな。

助けててっちゃんって、俺を頼ってくれたユヅキのこと、守ってあげられんの、俺だけじゃねぇか。



「片岡直人、この場で決めろ。ユヅキとこの先一生一緒に居たいなら、今のお前の人生全部捨てて黒沢探偵事務所に入れ。それができないならユヅキとの思い出は全部消す。……今この場所で選んでみろ」



俺の言葉に驚いた顔を見せた。

でもそれはほんの一瞬で、顔つきの変わった片岡は真っ直ぐに俺を見た。



「俺を黒沢探偵事務所に入れてください。何もかも捨てても構わない、ユヅキちゃんと一緒にいられるなら。傍でユヅキちゃんを守りたい」



強い目だった。

これがユヅキの愛した男だと思うとやりきれないけど、俺が守りたいのは、ユヅキの幸せであり、ユヅキの笑顔だ。



「アキラ頼む。ユヅキの記憶は俺に任せてくれない?それから片岡を仲間に、入れて欲しい」



俺をジッと見つめるアキラ。



「いいのか?お前」

「ああ。ユヅキは大事な家族だから、俺達が道をつけてやろうぜ」



アキラが呆れた顔で俺を見ている。



「全く、呆れた奴だよ、お前は。俺ならそんな優しさ持ちあわせてねぇわ」



アキラが軽く俺の背中を叩く。

自分でも馬鹿じゃねえかって思う。

だけど守りたいのは俺も同じなんだ。

片岡ごめん、これは俺にしかできない守り方。

最後ぐらい俺に華持たせてよ。

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