愛してる
この温もり、覚えてる…
身体が心が覚えてる…
何度もこうして抱きしめられた。
何度もこうしてキスをした…
走馬灯のように頭に入りこむ映像は全て直人のもので…
「ユヅキちゃん、愛してるよ」
直人にそう言われて、私の中で消えてしまっていた記憶が蘇ってきた。
「うそ、直人さん…どう、して?記憶は?」
「思いだしてくれた?」
コクっと頷くと、ふわりとまた抱きしめられた。
「よかった…」
「消されてないの?」
「うん。消さないでほしいって…頼んだ」
「ボスに?」
「そう、ボスに。全部経緯も聞いたよ。このミッションも、その行方も…。ユヅキちゃん俺ね、仕事やめたの」
「なんで?」
「そりゃ、ここに入る為に。秘密を知ったらこっちの世界でしか生きていけないって。だからユヅキちゃんが知ってる片岡直人はもう全部捨てた。でもその変わり、ユヅキちゃんとだけは離れたくないって…。哲也さんがユヅキちゃんにかけた魔法がとけたら持っていけばいい!って言ってくれて…」
「てっちゃんが?ほんとに?」
「うん。運命の相手に出逢えた時に、記憶を全部思い出すって催眠をかけてくれたの。だから俺と逢って思い出してくれたユヅキちゃん、ありがとう…」
哲也…。
ボスも…―――甘すぎる、私に。
頭の中も、胸もいっぱいいっぱいで…
この状況が夢みたい…―――でも。
「せっかく立ち上げた会社なのに…直人さんの夢だってまだまだあるでしょ?」
いつか聞いた直人の夢。
適当な私の夢すら応援してくれたよね。
不安な私の頬をムニュって指で軽く抓ると「いんだよ」って笑った。
「夢はどんな形でも追える。けどユヅキちゃんだけはもう失いたくないから。すごくない?一瞬で俺覚悟決めたの!それだけユヅキちゃんが好きなんだって、自分でも分かったし…。だから今度こそ本当に、俺に未来を預けてくれませんか?嘘の恋愛じゃなくて、本気の真実の愛をさ…2人でずっと一緒に育てていこうよ?」
鼻がツーンとして喉の奥が痛い。
目の前の直人がどんどんボヤけていく。
どんなに頑張って気を張った所で、涙は止まってくれない。
あんなに苦しくて悲しくて泣いたのに、私の涙枯れてなんかいなかった。
あの時、桜の下で直人との未来を願った私。
叶えてくれたのは、ボスであり哲也であり…―――大事な家族達。
そして、私を受け入れて待っててくれた直人。
いいのかな、私だけこんなに幸せになっても…
「直人さん、てっちゃん何か言ってませんでした?」
「うん?」
「私ね、直人さんのこと忘れて、てっちゃんと生きていくってそう思っていたんです…」
私の言葉にギョっと目を見開く直人。
聞いてない!って感じに。
「え、そ、そうなの?てことは、哲也さんはユヅキちゃんのこと…?え?そうなの?」
焦ってる直人は珍しくて…
「私を女にしたのはてっちゃんだよ」
「…マジかよ…」
「でも、もうしない。直人さん以外とは…」
「…うん。ありがとう」
「ショック?」
「めっちゃ…」
「じゃあその分、いっぱい愛して?」
ギュっと直人の手を握る。
すぐに強く握り返してくれる温かい手。
見つめる先の直人は高揚していて。
「うん。約束する…」
「直人…」
「ユヅキ…」
愛してる…―――