最後のサクラ


「あ、泣かないで直人さん」



自分だって泣いてるのに私はとめどなく流れ落ちる直人の涙を指で拭う。

真っ赤な瞳で優しく私を見つめる直人。

抱きしめたくなる……

このまま二人でどこかへ逃げてしまいたくなる。




「ユヅキちゃん、話してくれて嬉しいよ。俺はどんなユヅキちゃんも受け止める。二人で過ごした時間に嘘はないって思ってる。だから別れるなんて言うな!ずっと傍にいろよ」




ギュウって直人が私を抱きしめる。

首を振る私をそれでも強く抱きしめる。




「無理だよ、できない。それが掟だもん。もうすぐここにボスがきて私と直人さんの記憶を消される。もう二度と元には戻れない」

「ユヅキちゃんの気持ちは?嘘つかないでちゃんと聞かせて?俺のこと、どう思ってた?」




答えられるわけない。

答えたら直人は私をどこか遠くへ連れて行ってしまうかもしれない。

そんな掟破りは許されないし、私は哲也と生きていくって決めた。




「離してっ!」

「離さないって言ったろ俺!」




もう止めて!

これ以上苦しむのはもうイヤ……

助けててっちゃん。




「私はっ……―――――――――――直人と離れたくない、ずっと一緒にっ……いたいよぉっ…」




神様お願い。

直人と一緒にいさせて。

どんな形でもいい、直人との未来を選ばせて……

お願い、お願いします、





「直人のこと、本気で愛してる…」





――――――それが、私の最後の言葉だった。



雨のように振り散る桜が涙で滲んで見えた。

直人、さようなら。

直人、愛してる――――――
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