交わした約束


代替えの車に乗ってスーパーで食材を買ってから二人で直人のマンションへと戻った。

ご飯を作り終えてリビングにそれを並べる。




「先に話した方がいいかな?」

「あ、食べながらで大丈夫です。直人さんお腹空いたでしょ?」

「まぁ。じゃあユヅキちゃんも食べてね?」

「はい、いただきます」




シャンパンで乾杯をしてグビッと飲み干す。

目の前の直人も同じように一気飲みしていたからグラスにシャンパンをついだ。




「前に話したと思うけど、早瀬さんって人にストーカー紛いの行為を受けていて。俺の女性関係全てを消そうとする厄介な人だから、ユヅキちゃんのこともすぐに気づかれて危ない目に合わせてごめん」




ペコッと頭を下げる直人に「大丈夫です」ニコッと微笑む。




「施設で育った彼女は、本物の愛を知らない人で。俺がまだ若かった頃に知り合って、なんとなくほおっておけないなって思っちゃって、彼女と一緒に暮らす様になったの…」




やっぱり付き合ってたんだ。




「だけど次第に束縛がエスカレートしてきて、正直手に負えないって。何度も話し合ったけど、考え方が違うっていうか、俺の気持ちを受け入れても貰えなかったし、彼女の気持ちも俺は理解出来なくて。別れた後もずっと同じことの繰り返しだった。そんな時に取引先の中森さんの自殺があって、もう誰も好きになることはやめようって思ってたから、ユヅキちゃんのことも最初は自分で認められなくて。でもそれすらもできないくらいユヅキちゃんが可愛くて逢いたくて、大好きで…。もう一度人を愛したいって思えたんだ。だけど早瀬はやっぱり黙っていなくて……話し合いも正直意味があったのか?は分からない。でも今度俺達に何かしたら警察に突き出すってそう言ってある。何があっても俺がユヅキちゃんのこと守るから…ずっと一緒にいてくれないかな?」

「……はい。私言ったでしょ?直人さんへの愛なら誰にも負けない!って。私も一緒に戦います!」




顔の横でグーにした手を軽くあげるとふんわり直人が微笑んだ。




「頼もしいけどちゃんと守らせて。好きな人も守れない男にはなりたくないから」

「はい!」

「うん。ありがとう…。昨日ユヅキちゃんの声が聞こえた気がしてさ。俺重症なのかもって。聞こえるはずのない場所でユヅキちゃんの声がして何かあの瞬間、俺が守られた感じに思えちゃったけど、ちゃんと守るからさ!」




ポンポンって直人の手が私の頭に触れる。

その手に触れると直人の熱い瞳が微かに揺れた。

重症なその想いは私が創り出したもの。

だけどそう思ってくれる直人があまりに嬉しそうで、本当のことは勿論言わないでおこう。

私の声が聞こえたことをそんな風に喜んでくれる直人が好き。

この人の傍にいると、全部崩れてしまう。

必死で固めた決意も簡単に揺らいでしまう。

でも最後ぐらいはちゃんとしなきゃ。

せめてきちんとお別れしないと、ダメだよね。




「直人さん?」

「ん?」

「それ、見たくありませんか?」

「え?どれ?これ?」




雑誌の表紙を飾る夜桜。

間もなく桜が満開になるこの時期。

お花見の席取りの仕事はしたことあるけど、お花見を楽しんだことなんてなかった。

本当は、直人としたい未来が沢山ある。

ただの恋人が当たり前にするデートや旅行が、私達には許されない。

私と直人の未来にそんな甘い時間は存在しない。

だからせめて最後ぐらいはそれを見たいと思う。

夢見るぐらいは自由だ。




「夜桜かあー。いいね!明日行く?」

「ううううん。明後日がいい!明日より明後日がいい!お仕事大丈夫かな?」

「平気だよ。じゃあ明後日ね?明日は?」

「明日は、直人さんとずーっとイチャイチャする!」




微笑む私に「いいアイデアだ!」なんて笑ってくれる。




「3日間ここにいてもいい?」

「4日目も5日目も、ずーっといて?」




スッと直人が小指を私に突き出した。

小指と小指を絡ませるお約束。

私はそっとそこに指を絡める。





「ユヅキちゃんは、俺のもんだから!誰にも渡さないよ」




――――――ずっとずっと、直人のものだよ。
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