幸せな時間


完全にカメラマンと化した剛典は、調子づいて色んなポーズをねだってきた。

それに難なく答える哲也。

満点の星の下で、私を絶対に離さない!と誓った直人を思い出した。




「どうした?ユヅキ…」

「え?」

「顔が暗い」

「なんでもないよ」

「片岡のこと?」

「違うよてっちゃん…」

「そう?別に無理して笑うことないよ?」




無理になんて笑ってないよ、無理になんて…




「ユヅキちゃん、電話鳴ってるよ?」




スマホを私に差し出す剛典。

勿論ながら相手は直人で。

意外と時間が過ぎ去っていたことに今更気づく。




「直人さん?」

【ユヅキちゃんお待たせ!区切りがいいから出てきたけど、今どこ?】

「あ、えっと今…」

【うん?】




ポンポンって哲也が私から離れていく。

「見せてやれば?」って口パクで言うんだ。




「あの今、試着室で…」

【あ、そうなんだ!どこのブランド?俺そっち行くよ!なんなら仕立ててやるよ?】

「いえ、あの……ジョイフルです、」

【ジョイフル…あ、ドレス!?マジで!?】

「マジです…」

【うわ絶対脱がないでそこにいて!すぐ行くから!】




直人はそう言うとプチっと電話を切る。

もう哲也は着替えていて。

店員さんの所に行くとパチンと指を鳴らす。

今の記憶が消されたんだって分かった。




「それどーやるんっすか?」




興味津々に剛典が聞いてる声がするけど、その後ろから直人がこっちに向かってくるのが見えて。




「お前にはまだ早いよ。臣だってできないんだから」




まるで魔法使いのように、この場から哲也と剛典の香りが消えた。





「ユヅキ、ちゃん……」

「直人さん…」




私を見て呆然と立ち尽くす直人は走ってきたからか高揚していて。




「あ、ごめん、あまりに綺麗で…」




試着室でカツラとカラコンを変えていつもの私になって出てきたから、哲也達はこの私を見てはいない。

直人に見てもらえるなんて、思ってなかった。




「直人さんも着ますか?」

「え?俺、も?」

「はい。せっかくだから記念に。私が選んであげます!」




そう言ってタキシードの棚にいって一つ手にした。

じつはさっき哲也のを見立てていた時に見つけた奴。

どうにも直人のイメージしかないそれを差し出すと「照れるけど」そう言いながらも試着室に入って行く。

直人が着替え終わるのを待つこの数分がすごく幸せに思えた。

こんな風に好きな人の晴れ姿を待つなんてことない時間が永遠に続けばいい…と、願わずにはいられなくて。

シャッとカーテンを開けて出てきた直人に思いが溢れる。




「どう?かな…」

「かっこいい」

「ほんと?」

「はい」

「ありがとう。何か照れるね」

「うんでも…嬉しくて泣きそうです…」

「ハハ、ユヅキちゃんが泣き虫なのは最初からだからね」




そう言って指で目の際を拭う直人。

私ってそんなに泣き虫だった?

自分で思う以上に直人に喜怒哀楽を出していたのかもしれない。



二人で写真を撮ってウエディングドレスを脱いだ。

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