涙のキス


翌朝早く、事務所に依頼人がきた。

ボスと哲也が対応していて、大量の札束を置いて帰った。

始末する場合、アキラが記憶を消す。

この依頼人も記憶を消されて帰って行った。

哲也と二人で部屋に戻ると真面目な顔で私を呼んだ。




「ユヅキ」

「はい」

「決行は3日後。それでこの案件は終わる。ユヅキはどうしたい?」




哲也が聞いてるのは、直人とのことで。

案件が終わると、関係者各位に関わることは許されない。

もう二度と逢えなくなる。

私だけ例外なんて許されない。

膝に置いた手が震えそうで強く指を握りしめた。




「ルールに従います。もう二度と直人には逢いません」

「ユヅキ」

「逢いません」

「俺泣いてるユヅキ見たくないんだけど?」




ハアッて哲也が小さな溜息を零す。

あと3日しかない。

あと3日後には私は直人のこと……




「記憶を消してください。お願いっ…」

「それでいいの?」

「てっちゃんの傍にいさせて…」

「俺の女になるってこと?」




哲也の言葉にコクっと頷く。

数秒間何も言わなかった。

長く感じる数秒後、小さく息を漏らす哲也。

ポンッて頭に手を乗せられてそのまま腕を引き寄せられた。

あっという間に哲也の腕の中。

安心できる温もりにそっと目を閉じた。




「俺独占欲強いよ?いいの?」




ちょっと嬉しそうな哲也の声。

哲也の独占欲なんてとうの昔に知ってる。

小さく頷くとクスッて笑われた。




「臣とも剛典とも寝るんじゃねぇぞ?」




コクって頷く。




「毎晩抱くよ?」




コクって頷く。




「一生傍にいてやる。ユヅキのこともう泣かせない…。最後の3日間、好きに過ごしてこい。俺が迎えに行くまで素直なユヅキでいろよな」




ギュッと強く抱きしめた後、そっと離して顔を覗く。

触れるだけのキスを数回繰り返す哲也。

私はこの人と一生を過ごす。

それでいい。

それが私の生きる道だ。




「足りない、てっちゃん」




抱き着いて自分から舌を絡めた。

受け止める哲也をそこに押し倒して何度となく甘いキスを繰り返す。

いつの間にか下にいたはずの哲也が私の上で妖艶に動いている。

綺麗な哲也の頬に手を添えるとそこにチュッて唇を押し当てる。

そのまま哲也の首に腕をかけて引き寄せて舌を絡めた。

腰に触れていた哲也の手がゆっくりと移動して私の中に入る。

中を指でかき混ぜると水音がして意識がそっちに集中する。

奥の壁を指で擦られて身体が揺れる。

呼吸があがる私から舌を抜いて、一気に足元に顔を埋める哲也。

指が舌に変わってまた違う快感が突き上げる。

サラサラの髪に指を差し込む私の指を哲也の指が絡みつく。

ギュッと握って舌を奥へ入れ込む哲也に脳内が真っ白になった。




「ユヅキ大丈夫?」




肩で大きく呼吸を繰り返す私に、哲也が自分のを持って入口に宛てがう。

そのままニュルリと中に入れると子宮がキツくなった。




「ユヅキこっち見て」

「うん」

「直人と重ねないで?」

「ちゃんと見てる、てっちゃんのこと」

「哲也って呼べよ?」

「哲也?」

「もっと…」

「哲也……哲也」

「好きだよユヅキ。愛してる…」




初めてちゃんと言ったかもしれない。

薄れゆく意識の中、哲也の愛してるに目を閉じると涙が零れた。

泣くの最後にするからごめんね。

壊れそうな心を隠して涙する私に、哲也の優しいキスが落ちた―――――。



- 76 -
prev next
▲Novel_top