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忘れることのできない記憶
「てっちゃん、直人は?」
「……ホテルには入ってないよ。安心しろ。タクシーに乗せたのは早瀬の方だけだったから。けど、早瀬の話は半信半疑。だからユヅキのこと気にしてるんじゃない?」
「私のこと調べてた、早瀬。ごめんなさい気づけなくて。私仕事もろくにできなくて、直人のことも…」
好きになったって、隠しきれない。
今更みんな分かってるかもしれないけど、言葉にしてしまったら戻れないのに。
だけど言わずにいられない。
「言うなよ、俺の前で…」
哲也の声に顔を胸に埋める。
矛盾している気持ちとうまくいかない苛立ち。
どうしようもない、気持ち。
「直人以外の人ならよかったのに…。こんなに苦しいなら直人のことなんて、忘れたい…」
ギュッと哲也にしがみつく。
「忘れるか?マジで?」
ポコッて頭にのった手はアキラのもの。
この人は何でも持っていて、この人よりも強い人はいないんじゃないかってぐらいの私達のボス。
涙目の私の顔を覗き込むアキラは真剣で。
「え?」
「記憶操るぐらい簡単にできんぞ?ユヅキが本気で片岡とのこと忘れたいなら、一瞬で忘れさせてやる…」
一瞬でわすれ、る?
初めて意識したことも、初めて触れた指も、初めてのキス…
人に想われる喜び。
初めて愛おしいと思える人…
愛し愛される存在…―――――無理、こんな人、二度と出逢えない…。
「可哀想、ユヅキちゃんが。せっかくやっと見つけた運命の相手のこと、忘れるなんて俺は反対。ユヅキちゃんを幸せにできるの、悔しいけど片岡しかいないと思う……」
運転席の剛典の声。
唯一、私の気持ちごと認めてくれた理解者。
「一人でも反対する奴がいたらやらねぇ。俺達は家族だから。……剛典、お前もな!」
忘れたいと願ったくせに、忘れるなんてできやしない。
苦しくても悲しくても、どんなに辛くても忘れるぐらいなら死んだ方がましだ。
直人に逢える時間が急激に減少していくのを静かに感じていた。
失敗に終わってしまう私のミッション。
初の大仕事を台無しにしてしまった私は、クビだろうか?
「てっちゃん私、クビ?」
一瞬キョトンとしたあと、軽く笑う哲也。
ポカッと私の頭を軽く叩く。
「そんなわけないよ。俺が仕事回してあげるから、大丈夫。ユヅキは何の心配もしなくていいよ。今は何も考えずに休めよ。ずっと傍にいてやるから」
哲也の言葉に、もう直人に逢えないのかもしれないって、思った。
この後、哲也が早瀬を消すんだって。
そしたら私と直人の関係も何もなくなる。
やっぱりこんな記憶、いらない。
もう直人に逢えないのなら、いらない。
そう思うのに、私の中は直人でいっぱいで。
どうしようもなく心も身体も直人に逢いたいと思ってしまう。
末期だよ、もう。