下手くそな生き方
直人が振り返る寸前、啓司に抱き竦められてニュルリと舌が私の口内をなぞる。
身体の大きい啓司にすっぽり包まれて繰り返されるキスに、ただ涙が零れるだけだった。
―――――行かないで、直人。
誰も触らないで、私の直人に…―――――
目を開けた時には大通りにタクシーなんてなくて、直人と早瀬の姿もなかった。
泣き崩れる私を啓司がふわりと抱き上げると、目の前にバンが止まった。
ドアがあいて中から伸びてきた腕が私を強く抱きしめる。
珈琲の香りのするこの腕に抱きしめられてギュッとそこに顔を埋める。
「てっちゃん、ごめんなさいっ…」
「いいよ。もういい…。もう何も言うな…」
哲也の声が震えている。
どうして私はうまく生きられないのだろう?
「お前にはまだ荷が重かったな、ごめん」
ポンッてアキラの手が私の頭に乗っかる。
「そろそろ決着つけるか、早瀬。依頼人には俺から話すよ」
私を甘やかすアキラと哲也に誰も何も言わない。
運転手の剛典も、後ろに乗ってる臣も、啓司も。
「ユヅキ」
「アキラごめんなさいっ。私っ…ごめんっ…さいっ…」
直人のこと好きになってごめんなさい。
仕事もろくにできなくてごめんなさい。
上手に生きられなくてごめんなさい……
ねぇ直人。
私達こんな出逢い方じゃなかったらどうだったかな?
運命ならどんな出逢い方をしてもまた出逢えるのかな?
何もかもが初めての私には何も分からないよ。
分かっているのはたった一つ。
直人が大好きって私の気持ち。