危険な香り


早瀬に気づかれることなく直人の会社の反対側にある喫茶店に入った。

直人のあがる時間に合わせてそこに行く。

剛典は少し離れたところに居てくれて、何だかちょっと安心している自分がいた。


カランって約束の時間より15分早く直人がお店に入ってきた。




「ユヅキちゃん。お待たせ!」

「直人さん、お疲れ様です」

「行きたいとこあるんだけど、すぐ出れる?」

「え?はい」




置いてあった伝票を手にするとそれを持ってレジに行く直人。




「直人さんお金…」

「待たせちゃったから!」

「…ありがとう」

「気にしない!」




お金を払って外に出ると、少し後に電話をかけながら剛典も出てきた。

早瀬の姿は見えなくて、ここじゃなくてマンション前にいるのかもって。




「どうぞ」




そう言って直人は車の助手席のドアを開ける。




「ドライブ?」

「そ。今日は絶好の天の川日和なんだよね!星好き?」

「好き!でも直人さんと一緒だからそれが何より嬉しい…」




私の言葉に直人が微笑むと、そっと背中を押して車に乗ろうとした時だった―――

反射的に除けた次の瞬間、ちょっと大きめの石ころが直人の車のドアにガツっと当たったんだ。

剛典が動いたのが見えて、石ころが飛んできた方向とガッチしている。




「ユヅキちゃん大丈夫っ!?」




直人が辺りを見回すものの、直人にはきっと見つけられないって思う。

困惑した表情の直人の腕をギュっと掴む。




「直人さん。今私のこと狙ってたよね?」

「…ユヅキちゃんごめん。気づかれたのかも…」



グッと唇を噛み締める直人。

その顔は今まで見たことのないくらいに悔しそうで。




「私、負けたくない!負けないから直人さんを想う気持ちじゃ、絶対に負けない!」

「ユヅキちゃん…。ありがとうそう言ってくれると嬉しい。けど一度ちゃんと話してみるよ。とりあえず今日は帰ろうか?」

「ううううん。行きたいです、星見たい。天の川なんて見たことない…直人さんと一緒に見たい…」

「分かった。連れて行く。でも約束して?俺の傍から絶対離れないって…ね?」




頭に手を乗せられて顔を覗き込まれる。

そのまま頬に触れて指が掠めてくすぐったい。





「はい。でも直人さんが危険にあうぐらなら私が守ってあげる!」




私の言葉に笑って抱きしめてくれた。

やっぱり直人の笑顔は私のパワーに変わる。

絶対に早瀬に負けないんだから。


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