幸せになるために
金髪ロングのカツラとサングラスで剛典と一緒に家を出た。
アメカジファッションを身にまとってガムをくちゃくちゃしながら剛典とイチャイチャ歩く。
勿論ながらアジトを守らないとダメなわけで。
この場所は絶対に早瀬には知られちゃいけない。
きっと直人のマンションの近くで待ってる。
だから私が一人で帰る時を狙ってくるって…
簡単なヤマははれる。
その通りにいくかどうかは分からないけど。
「名古屋のお坊ちゃんだったの?」
「…そうだけど」
「どうして家出たの?」
「…とりあえず東京に行きたくて。でも親の金は借りたくないし、だから一人で手っ取り早く稼ぐのは夜しかないって…」
「どうして、家出たのよ?」
あえてなのか話を逸らした剛典に意地悪く聞いてやった。
みんなにミイラをバラまいた仕返しだよーって。
身内にだって言えないことはいっぱいある。
でも他人だからこそ言えることも中にはいっぱいある。
「別に理由なんてない。ただ広い世界が見たかったんだ…」
「失恋か〜」
「…ユヅキちゃんって結構意地悪だよね。哲也さんにそっくりだよ、そーいうとこ!」
ツンって鼻の頭を突かれる。
だけど次の瞬間目に入ったんだ、あの女が。
「剛典、マルタイいる」
「は?もう?マジでなんなのあの女…」
このナリの私達を追っているわけではなく、そこで私が来るのを待っているようだった。
直人の恋人の私が出入りするのを…
「直人の会社の方に移動するかな…」
そう言った私の顔を「ふうん」って笑う剛典。
なに?
「ナオト、ねぇ…。今の自然と呼んでたね名前。ユヅキちゃんマジで好きなるなんて思わなかった。――――けどよかったね。本物は幸せでしょ。いつにも増して綺麗だもん、最近のユヅキちゃんは」
見つめる剛典は何だか嬉しそうで。
直人を愛したこと、初めてこうやって誰かに喜んで貰えたのがすごく嬉しい…
「ほら、その顔。嬉しいんでしょ?クソ可愛いよ」
ポンポンって剛典の手が優しく髪を撫でた。
啓司は哲也だって言うし、臣は私のこと大好きだし…
一番近くにいる哲也だって…
「ありがと…」
誰かに気持ちを認めて貰えることがこんなにも嬉しいなんて初めて知った。
剛典のシャツの裾を後ろから引っ張ってそう言うと、剛典がポンポンって帽子の上から私を撫でてそのまま抱きしめた。
「俺は味方だから。忘れないで…女の子は幸せになるためにこの世に生まれてきたんだよ。俺達男は好きな子を幸せにするために、生まれたってこと。お互いがこの人だけだ!って思える相手に出逢えることって、そうないんだから…大事にしなよ、ユヅキちゃんの気持ちも、片岡のことも…」
剛典なのに…剛典のくせに…―――涙が止まらない。
直人と出逢って好きになって色んな意味の涙を知った。
嬉しい涙、悲し涙。
これもまた嬉し涙だけど、やっぱりちょっと胸が痛い。
「大丈夫、俺が守ってあげるから。みんなに言えないことも、俺には話して…ね?」
「…うん。剛典…ちょっと見直した」
「え?かっこいいって?」
「…うん」
「やっと気づいたか!俺の魅力に」
そう笑った剛典に私も笑い返した。