命がけのミッション
「あの、早瀬の相手、俺にやらせてください?」
リビングでご飯を食べ始めていた剛典が、目をランランとさせてそう言う。
視線の先の哲也は涼しげな顔で珈琲をすすっている。
ちょっと考えているような顔の哲也。
臣は面白ろ可笑しいって感じに鼻で笑っている。
この大仕事を完璧にこなせば、言うなれば剛典はみんなに認めて貰える…とか思っているんだろうか?
私に愛を知らないなんて寂しいね…なんて言っておきながら、自分は愛のない相手をモノにしようとしているのがすごい。
自信があるのは分かる。
でも―――「やめなよ?」私の言葉に、哲也がクスっと笑った。
「なん、で?」
「だって、直人以外に靡くと思えない…」
もしも私みたいに剛典が恋でもしたら?
私を呆れたように見た後、剛典がとんでもないことを言い放ったんだ。
「大丈夫、ユヅキちゃんみたいにミイラになんないから!」
間違ってないけど、剛典の隣の臣が物凄い嫌な顔で私を見た。
啓司はうんともすんとも言わずに納豆をかき混ぜていて。
「お前殺すよ?」
臣があり得ない形相で剛典を睨んで言った。
言われた剛典は全く動じてもなくて。
「本当のことじゃん!臣さん知らないからっすよ、ユヅキちゃんと片岡のこと」
「剛典さ、何がしたいの?」
ようやく口を挟んだ哲也は、刺すように剛典を見ている。
その視線だけで恐怖だって思うわけで。
キョトンとした顔のまま剛典は「なにって、え?」意味が分かんないって顔。
「俺達が動く前に早瀬はもう動いてるよ。今日からユヅキに尾行がつくはずだから、剛典はユヅキのこと守ってよ。隙あればユヅキに手かけてくるよ、あの女絶対。それぐらい分かるよね?」
「………」
何も言えない、言い返せない剛典は、苦虫潰したような表情で。
「女一人命かけて守ってみろよ。そしたら言わずと俺達はお前のこと認めるから。名古屋の実家、とんだ金持ちのお坊ちゃんだなんて、そんな目で見ないって…」
「…はい」
ホストあがりな話術と度胸を持っているのに、ここでは哲也には誰も敵わない。
この日から、剛典は本格的に私の弟として、まとわりつくようになるんだった。