生い立ち
何も考えたくなかった。
哲也も同じなのか、行為が済んでも何も言わずにただベッドの中でまどろんでいる。
もう一眠りしようかな…って目を閉じた瞬間、後ろの哲也のお腹の虫がキュルルルル〜と鳴いた。
「…うわ、ロマンのかけらもねぇ…」
「ロマン…あったの?」
「え?感じなかった今まで…」
「…分かんないけど…」
「ユヅキ…」
「え?」
「この部屋から一歩出たらまた仕事の話になるから。そういうの嫌な時は俺の部屋で何もかも忘れていいから。施設にいるお前をアキラと啓司と三人でここに引き取った時から俺は、永遠にお前の兄貴だから。それだけ忘れんな?」
「…うん」
ここの住民はみんな施設育ちで。
親に愛情を貰うことができなかった私と、親に捨てられて施設の脱走を何度も繰り返して非行に明け暮れて捕まる臣をあの日引き取りにきた哲也とアキラと啓司。
「責任もって育てます」
そうシスターに頭を下げてここに連れてきてくれた。
物ごころついたころから施設にいた私は、人との接し方なんて当たり前に知らなくて。
勿論のこと、学校にもろくに行っていなかった私に勉強であり、世間のことを教えてくれたのは他の誰でもない哲也で。
笑うことを知らなかった私に、単純に笑うことを教えてくれたのも哲也。
私の全ては哲也でできている。
「うん。分かった。てっちゃんのこと頼りにしてる」
「それでいい。んじゃ飯行くから服着ろ」
「うん」
哲也の身体をジッと見て私はニッコリ微笑んだ。