生まれてきた価値


「ユヅキ、ピアス外して…」



見るとピアスを外した哲也が私に手を差し出している。

いつでも哲也の監視にあっていたけれど、それを嫌だとも思っていなくて。

結局、哲也がそうやって私を見守ってくれているから、好き放題できているんだって思う。

アキラが私のことは哲也に任せたあの日からずっと、私は哲也に甘やかされて生きている。



「うん…」



直人に抱かれた日からまだ、直人以外に抱かれていない。

外したピアスを哲也に渡すと、電源を切って机に置いた。

手を引いてそのままベッドの上に連れていかれて…

ギュっと抱きしめられた。



「ユヅキ…」

「ん」

「もう俺以外の奴と寝るな…」



哲也の言う”俺以外”は、直人じゃなくて、この部屋の住民のことだと思う。



「…はい」

「キスもすんなよ?」

「…うん」

「約束…」



小指を差し出す哲也にそっと指を絡ませた。

またギュっと抱きしめられて。

こんな風に哲也が気持ちをぶつけてくるなんてこと今までほとんどなかった。

これが哲也の独占欲というのなら、私はやっぱり哲也に愛されているんだと思えた。


そっと哲也の背中に腕を回した瞬間、腰にかけた腕で持ち上げられてベッドに押し倒された。

トサって哲也の温もりに目を閉じたら、ほんの少し遠慮がちに唇が重なった―――

チュって触れあうだけの小さなキス。

情熱的な哲也には少し珍しいこのキスだけど、心地良くて私は身体の力を抜いた。

”いいよ”って意味も込めて。

だからその合図をちゃんと受け取った哲也のキスが急に激しくなったんだ。

直人に触れられると忘れてしまうこのキスも…

哲也にされると安心できるなんて。

これが私の生き方で、生きる道だって…

何度も哲也に刻みつけられたこの印は、いつか直人だけのものに変わるのだろうか…

それを私が望んだら、きっと哲也はどんな手を使ってでも望みどおりにしてくれるんだろうって。



「てっちゃんの幸せはどこにある?」



急に私がそんな言葉を零したらキスを止めて「え?」驚いた顔で私を見下ろす…。

着ていた白シャツを脱ぎかけていたからそれを片手で腕から外してベッドの下に落とした。

まっさらな哲也の白い肌に指で触れる私を愛おしそうに見つめる。



「やっぱお前、確信犯だな…」

「…てっちゃん…」

「今この瞬間に決まってんだろ!」



私でも誰かを幸せにできるんなら、生まれてきた価値もあるんだね。

- 64 -
prev next
▲Novel_top