苦しみの共有


シェアハウスに戻ると、それが分かっていたんであろう剛典が玄関先で私を迎え入れてくれた。



「お帰り。俺との約束すっかり忘れてたでしょー?」




冗談ぽく軽く言われたけど、頭の中に剛典の入る隙間なんてない。




「てっちゃんは?」

「部屋にいるよ?」

「ありがと」



哲也の部屋に向かう私の後ろ姿に剛典が小さな溜息をついたけど、気にならなかった。




「てっちゃん!てっちゃん!てっちゃ……」



ドアをドンドン叩くと中からドアが開いた。



「ユヅキ、お帰り…」



顔を出した哲也は至っていつも通り。

哲也に会って何を言おうと言うのだろうか?

どうして貰えば気がすむのだろうか?

何も言葉なんて出てこなくて…

張っていた気が抜けたように涙がボロボロと零れてしまう。

泣いても何も変わらないってことは分かっている。

だけど感情のコントロールができなくて…




「もう辞めたい…」



そんな一言が喉の奥から湧き出てきそうだった。

張りきってやり通す!なんてしらを切ったのに、こんなにも早く挫折するなんて。

それを分かっていて、哲也はそれでも私の気持ちを優先してくれる。




「相手が片岡じゃなかったらよかったのかな?」

「え?」

「そしたらユヅキ、こんなにも苦しまないでいられた?」

「………」

「それとも、どんな相手にも感情持っていかれる?」




違うよ。

だってどれだけ哲也に抱かれても、私の心なんて一度も動いたりしなかった。


―――直人だからだよ。




「ごめん、意地悪だね、俺。ユヅキのそんな顔、見たくないって思ってるのに、俺がそうさせてると思うと、やりきれない…」



最初から哲也を好きになれたならよかったんだろうか。




「てっちゃんごめんなさい…私…」




直人に本当のこと言いそうになった。




「いいよ。ユヅキがどれだけ苦しいのか…―――俺には分かるから」




そう言った哲也はフワリと私を抱きしめた。

安心できる哲也の温もりにそっと目を閉じた。


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