涙の意味
「うん、分かった、分かったから…。俺がずっと一緒にいるよ。絶対に離さないから、心配しないで…」
私を抱きしめた直人は抱きしめたまま腕を伸ばしてベッドの脇にある小さな箱を取り出した。
それを私の前にスッと差し出して…
「なに?」
「開けてみて」
「…うん」
黒い箱をパカっと開けるとそこには鍵が一つ入っている。
え、もしかしてこれ…
「愛鍵。俺はいつどんな時間(とき)でもユヅキに逢いたいと思ってる。仕事で忙しい時もあると思うけど、ユヅキが不安にならないぐらい好きだって伝えるよ。逢いたいっていつでも思ってるから、自由にうちに来ていいから。俺がいなくても中入って全然いいから…」
…合鍵。
さっきまでの不安な涙とは違う、嬉し涙なのかよく分からない涙が溢れて止まらない。
こんな風に愛し愛されることがごく一般的な幸せなんだろうか?
こうやってみんな、愛する人に幸せを貰っているのだろうか?
「先いったら、ユヅキのご両親にも会わせて欲しい…。俺の両親にも会って欲しいし」
このままいったら直人との未来があるのに…
目の前の直人には私との未来が見えているんだって…そう思うのに、この恋が嘘だなんて思いたくない。
早瀬の末梢が終わったら私と直人も奇麗さっぱり終わってしまう。
存在すらなかったように消える私に、直人は耐えられるだろうか。
こんなに愛し合っているのに、別れるなんてできるんだろうか…
何も、分からないんだ。
もしも今、直人に真実を言ったら信じる?
軽蔑する?
冗談だと思って流す?
―――直人。私依頼されて直人に近づいたの。
ジッと直人を見つめる私を優しく見つめ返してくれる。
「なお、と……」
「ん?」
「……私……」
「うん」
【ユヅキ…ばかはよせ】
カチッて、聞こえたピアスから哲也の声。
夜中の3時だっていうのに、哲也ばかじゃん。
何真面目に起きてんの。
寝ろよばか。
寝ろよ、ばかっ……
「眠くなっちゃった」
ちゃんと笑えているだろうか?
私の言葉に直人が微笑んだからバレてないって。
ほら、私ちゃんとできてる。
「おやすみ」
小さなキスを落として身体の力を抜いた直人は寝る体勢で。
それに安心して私も直人の分厚い胸にギュッと顔を埋めた。
心地よくトクントクンいってる直人の心音を忘れないように刻みつけた。