不安要素


「直人さん寝る?」

「ん。ユヅキちゃんの顔ずっと見てたいけど…」



事情後、ベッドの中で裸で抱き合っている私達。

社会人野球をやっているって言ってた直人は芸能人並にいい身体で、無駄なもんがどこにもないと思われる。

そんな直人に軽く抱かれてウトウトしながらも私はこの甘い時間に酔いしれてしまう。



「でも寝ないと仕事…。直人さん昨日だって寝てないじゃん。私は結構昼まで寝てたから大丈夫だけど…」



正確には夕方までだけど。



「ん〜。そうなんだけど、ユヅキちゃんと一緒だと眠んの勿体なくて…」

「それって私のこと見てたい?って、こと?」

「そ。飽きないしまたシたくなっちゃう…」



直人の腕が私を自分の上に乗せて下から見つめながら妖艶に囁いた―――



「キスして…」



低くて甘いその声に、身体の奥から全身が熱くなる。

うん。なんて言うことなく、私は直人の頬に手を添えて唇を舌先で舐めた。

目を閉じた直人がパチっと開けて私を見上げると、口端を緩ませて「エロイってユヅキちゃん」八重歯を覗かせて笑う。



「直人さんが可愛いから…」

「俺、オッサンだよ?どこが可愛いの?」

「八重歯とか笑顔とか…全部可愛くて…――大好き」



自然と浮かぶ直人への愛に自分でも可笑しくなった。

でも私を抱いてる直人はほんの少し目を逸らす。

醸し出す空気がちょっとだけ私を拒否しているようにも感じてしまって…

え、なに?

急に不安になった。

こうして抱き合っているっていうのに、直人の表情顔色一つで心臓がドクドクうごめいていく。



「あの…さ…」



そう言った直人はまた私を見てすぐに目を逸らす。

何か言いたげだけど、戸惑っているようにも思えて…



「な、に…?」



震えそうな声を隠しきれていただろうか…

今更嫌い?

別れよう?

好きじゃない?

思い浮かべるのは否定的な言葉ばかりで…―――お願い、早く言って…




「男に抱かれても何の感情も生まれない…って前にユヅキちゃん言ってたよね?」

「…―――え?」

「好きとかそういう感情もよく分からないって…」



…言ったかもしれない。

剛典に「可哀想」って言われて、そんなことを直人に口走ったのを思い出した。



「まだそう思ってる?」



不安気な直人の顔。

これを聞くのに、あんな切なげな顔したの?

横に首を振って否定した私は「思ってない」そう告げた。



「直人のこと心から好き。本当に大好き…――このまま二人きりの世界に行きたい…。誰にも邪魔されたくない。直人との未来が…欲しくてたまらない…」



ポロポロと零れる涙を直人の指が優しく拭った。
- 61 -
prev next
▲Novel_top