小さな幸せ


「直人さんはそこに座ってて!煙草でも吸って待っててください!」

「いーの?俺料理しないからむしろ足でまとい?」

「うん!」



私が冗談ぽく返事するとブハッて笑った。

でもそんな関係いいって密かに思った。

外で働いてきて疲れてるだろうから私の前では休んでてくれていいって。

外食ばっかだと栄養も偏るし、やっぱり温かい手料理を食べれるのは幸せって思ってくれる?

鼻歌交じりで直人の部屋のキッチンを占領してご飯を作る。

そんなことが幸せだと素直に思える恋人達はこの世の中にどれほどいるのだろうか?

好きな男の為に料理をする幸せな女を私はちゃんと演出できている?

カウンターキッチンだから直人がどんなことをしているのか分かる。

勝手なイメージだけど、家でもパソコンを広げて仕事をしているのかな?って思っていた直人は溜まっていたドラマを熱心に見ていた。

民間のドラマとか見るんだ!

デザイナーの直人がドラマ見ている姿がちょっと面白い。



「ふふ」



思わず声に出して小さく笑うとすぐに視線が飛んできた。

つぶらな瞳をこっちに向けて「ん?」って。



「直人さんもドラマなんて見るんですね?」

「え、あ、いがい?」

「はい。家でも仕事してそうなイメージだったんで」

「あーでも、ユヅキちゃんいねぇ時はそうかも。ユヅキちゃんがいるからリラックスしちゃってるわ俺」



ぐおーって伸びをしてソファーにもたれる。

直人が寝てもまだスペースのある大きなソファー。

高級そう…



「もうすぐできますから」

「うん。じゃあ一服してくる」



普段は家の中でも吸ってるんだろうけど、あえてなのかベランダに出て煙草を吸う直人。

そうやって気遣ってくれる所も大人だからなのか、たんに性格がいいのか。

一通りできた料理をテーブルに運んでエプロンを外した。

煙草をくわえたまま星を眺めている直人にベランダのドアを開けて「直人さんできたよ!」そう言うと引き寄せられて抱きしめられた。



「ど、したの?」

「ずっと触れたかったのー」

「直人さんって、結構甘えん坊だよね?」

「え?分かる?」

「うん。可愛い…。でも嬉しい、」



キスしてって言おうとしたら、煙草を灰皿に置いて小さなキスが落ちた。

だから「もっと」そう言うと「煙草臭いよ?」今更だって。



「いい。キスしたい気持ちの方がずっと大きいから」

「……そーいうの理性飛ぶから」



だめだよって、言わずに直人が顔を寄せた。

触れた唇は、強烈に煙草の香りがして。

哲也も臣も剛典も、あの家の住民もみんな煙草を吸うから正直気にはならない。

そんなことよりキスに夢中になって、ここが家のベランダだってことを忘れそうになる。

ニュルリと舌を舐めとられて、ハァッと息を吐き出すと直人の腕が腰を掴んでそのままお尻をふわりと優しく撫でた。



「ンッ…」



漏れた声に直人は唇を離してクスッと笑う。



「ユヅキといると、俺変態モード全開だなぁ。嫌われそう、これ以上暴走すると…」



ちゃんと理性あるじゃん!

止めたじゃん!

止められないのは私の方?



「直人さんズルイ。私足りない…キスだけじゃ物足りないよ」

「マジで?ユヅキちゃんがエッチでよかったー!でもせっかく作ってくれた料理食ってからね?」



やっぱりこーいうとこ、大人だと思った。

臣なら間違いなくご飯より私だ。

早瀬に会ったことで、私の中の感情が少しは仕事モードに戻ったのかもしれない。

でもそんなの直人に触れられるとすぐに消えてしまうものかもしれないけど。

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