一番辛い言葉


「今日も泊まるの?」

「え?」

「片岡んとこ。ユヅキちゃん結構攻めちゃってたけど、片岡と相性もよかったみたいね?」



作戦会議後、剛典と二人で食器を洗っていたらとんでもないことを言われた。

飄々とした顔で涼しげに私を見下ろす剛典。



「……聞いてたなんて知らなかった」



ちょっと怒ってる!って付け足す私に「だって、哲也さんが可哀想じゃん」って剛典。

まるで昨夜の啓司みたい。

ここの住民はみんな私と哲也が結ばれることを願っているのだろうか。

そんな私を見てふわりと微笑んだ剛典は、食器を受け取って雑にタオルで拭いてる。



「相性とか分かんない…」

「なんで片岡なの?」

「え?」

「なんであいつのこと、好きなの?」



そう聞く剛典は、あきらかに不満顔。

どうしてみんな私と直人のこと嫌がるのよ。

別にいいけど、それなりに心は痛い。

好きな人とのことを認めて貰えない人は世の中にどれくらいいるんだろうか?

家族、兄弟……

私と直人の幸せは許されないんだろうか。



「なんでって、なに?剛典の言ってること分かんない」



でも気付かれていても認めちゃいけない。

だからこの瞬間が一番辛い。

自分で自分の気持ちに嘘をつく。

この仕事を続けていく限り、直人と結ばれることはないって自分でも分かってる。

でも今は考えられない。

こんなにも心が直人を求めている。

でもそれは私だけの中に留めておかなきゃいけないもの。

どんなに気付かれていても、イエスとは言えない。

――――――それが、プロの仕事なんだ。



「ふぅん。んじゃ今夜帰ってきて俺と寝てよ?」

「へ?」

「できるよね?片岡以外とも普通に寝れるよね?」



なんでそんなこと言うの?

剛典って、ドS!?

ムッとなって私は「いいけど!」そう言った。

まるで売り言葉に買い言葉。

それでもそれが私のいる居場所なんだと心に蓋をして。

別にどうってことない。

臣に抱かれるよりは全然まし。

剛典は私じゃなくてもいい人だろうから。



「約束ね?」



細くて長い小指を私の前に出してそれに絡めた。

そんな約束、直人に逢ったら忘れてしまうなんて思いもせず。
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