末梢


「ともかくだ…早瀬のやり方は汚ねぇ。それにユヅキが負けるとは思わないけど、精神的ダメージ食らう可能性は大だ」



そこまで言うと啓司は残りのチャーハンをお皿ごと口の中に放り込んで「お前大丈夫?」ちょっとだけ憐れんだ顔で私を見た。



「まだ何もされてない…」

「ああそうだったな。まぁお前図太いから屁でもなさそうだけど…」



苦笑いなのか、自嘲的笑いなのか、啓司の真面目な顔に調子が狂う。

啓司はいつだって馬鹿でいてほしい。

それが私にとっても癒しだったりする。



「図太くてもユヅキは女だから、傷つく前になんとかするよ」



当たり前に私の隣にいる哲也の言葉にちょっとだけ心が軽くなった。

スッと私の髪を撫でて微笑む哲也。



「ユヅキが傷つく前に…末梢してやる。アキラに話しつけるよ俺が」



そうやって守ってくれる哲也であり、ここにいるみんな。

臣はちょっとだけ泣きそうな顔でソファーに背をつけていた。



「臣?大丈夫?」



だからそう聞くと「ん」小さく頷く。

そんな臣を見て剛典が残念そうな顔をしたけど、臣は私達の中でも弟キャラで泣き虫の弱虫だ。

ホストの時は相当気を張っていたんだと思う。

堂々たる態度だったようだけど、ここにいる臣は我儘で甘えん坊な子で。

そのギャップがまだ剛典には受け止めきれていないんだろう。

よっぽど剛典のがしっかりしている。

だから…―――



「え、じゃあ早瀬を末梢するならユヅキちゃんの任務も完了ってことですか?」



爆弾を落とされた気分だ。

ゴクっと唾を飲み込む。



「末梢するならユヅキちゃんのハニートラップはもういらなくないっすか?」



ごもっともだと思った。

早瀬がどんな人か分かったせいで、末梢という計画に変更しつつある。



「いや。依頼人はそれじゃ納得しない。そもそも俺達が受けた依頼とは違ってきちまう。中森が望んでいるのは、早瀬が苦しんでいる姿だから。最愛の男がユヅキを愛していることを知った時の苦しみを味あわせないと金は受け取れない。末梢はその後だよ、剛典。俺がやるからお前たちは口挟むなよ、こっから先には」

「それって哲也さんが危険を伴うってことっすか?」



それでも突っ込む剛典は心が強い人なんだと思えた。

臣は間違っても自分から危険なところに飛び込んだりしない。

でもそれでいいって思う。

せっかくこの世に生まれ落ちた命を、やっぱり粗末にしちゃいけないと思う。

早瀬みたいな奴以外は…



「てっちゃん…」

「心配すんな」



私が何を言おうとしていたのかお見通し?

私、直人はとっても大事だけど…「てっちゃんがいなきゃ私、生きていけないよ…」言葉にした気持ちは本心で。

今まで散々甘やかされてきたけど、私だって誰かを幸せにできるものかもしれないって直人に出逢って思った。

哲也の想いがどこまで本物なのか哲也にしか分らないのだけれど、少なくとも哲也は私を色んな意味で愛してくれている。



「…その言葉だけで十分だよ、ユヅキ…。お前の幸せは俺が守ってやるから安心しろ…」



強い言葉だったのに、すごく泣いているように見えたなんて。

みんなが幸せになれたらいいのに…

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