右腕
目が覚めると夕方だった。
啓司が既にハウスに帰ってきていて。
キッチンで夜ご飯を作っている啓司の前に顔を出すと「顔が浮腫んでる、ブース!」思いっきりからかわれた。
「ユヅキちゃんも食う?」
運転手剛典が相変わらず爽やかな笑顔で私に聞くから一つ返事で「うん!」そう言うと珍しく疲れた顔で臣が帰ってきた。
私の顔を見るなり「ユヅキー!!俺死にそうっ!癒してー」ガバリと抱きつかれる。
そのままソファーに押し倒されて臣の温もりを存分に感じる。
「ギャアッ重いっ!!死ぬぅっ」
「うわ、傷つく俺ー。啓司さんよりデブじゃねぇはず」
「臣太ったよね?最近顔ムッチムチじゃない?」
綺麗な肌を手でベタベタ触ると苦笑い。
「煩いこと言うと口塞ぐよ?」
顔を上げて至近距離で臣に言われて、慌てて口を閉ざした。
そんな私を見て目を大きく見開かれて。
「なにその拒否。今完全に俺を拒否ったよね?」
ムッとした顔と声で私を見下ろす臣は目の保養には抜群だ。
「え、別に?」
「いやいや嘘通用しないって。チューして?ユヅキから俺にチューしたら拒否ってねぇって信じる」
臣に言われて心臓がドクンっと高鳴った。
可愛い弟とキスするなんて別に何の感情のなかったはずなのに、簡単にできるはずなのに…
「拒否ったままでいい」
臣の下からグルリと回ってソファーの下に転がり落ちた。
バタンって音にみんなが私を注目するけど「大丈夫?」手を差し出す剛典に掴まって起き上がると視線も逸れていく。
「ねぇまさかとは思うけどユヅキ、片岡に惚れたわけじゃないよね?」
見抜くような鋭い視線を私に投げる臣に、答えたのは私じゃなくて剛典。
「は、臣さん今更?」
あきらかに全部知ってますって顔で臣を諭す剛典の耳には私と哲也とお揃いのピアスがついていて…。
え、まさか剛典も聞いてたの?
私の視線を辿る剛典はニコっと微笑んで続けた。
「ほら、哲也さんが聞き落としたら大変だからって、俺予備ね、予備…」
「広臣は感情が激しいから任せらんない」
そう言って哲也がトイレから戻ってきた。
だけど、臣はそんなことよりも私の想いが知りたいのか…
「ユヅキ、答えて?片岡に本気?」
腕を掴まれてユサユサと身体を揺すられる。
「仕事だよ、臣。剛典変なこと言わないでよね」
「ごめんごめん」
機転がきくのか空気を読むのが早いのか、違う、顔色読むのが早いんだこの子。
ヘラ〜って顔を歪めて謝る剛典は、哲也の右腕になるかも…なんて思えた。