自惚れ


「好きだよ」「愛してるよ」「そんな気持ち持ってない」……どんな答えだったとしてもそれが哲也の気持ち。

私をここまで育て上げてくれた哲也を、私は愛してる。

直人への愛とは違う愛情だけれど。

そんな風に思うことすら今までなかったのに。

やっぱり直人に出会ったことで、愛に溢れているんじゃないだろうか、私って人間が。


ポンッと哲也の手が私の髪に触れた。

見つめる哲也は優しい表情で。

薄い唇をゆっくりと開いた。



「お前確信犯?それわざと言ってんの?」

「へ?」

「俺達は家族なんだから、愛してるに決まってんだろ?」



家族か。



「女としては?」



確信をつく私の質問に笑ってクシャっと髪を撫でると「お前、男できたからって自惚れてんなよ?ほら、寝るぞ」哲也に無理やりベッドに押し込まれた。

哲也の部屋の大きなベッドの中で2人くっついて眠る。

数分たっても哲也は何もしなくて。

チラっと見るとスースー寝息をたてて眠っている。



「てっちゃん腕枕は?」

「え?腕枕?」



話しかけるとすぐに起きて。

きもち、言葉がゆっくりだから本当に寝かけていたんだって申し訳なく思う。



「うん。啓司がしてくれた」

「…ふぅん。おいでユヅキ…」



スッと哲也の細腕が私の首の下に通されて頭をコテっと寄りかかるようにされて。



「ありがとう」

「…うん」



眠そうな顔で哲也が近付いてきて、軽く触れるだけのキスをして「おやすみ」深い眠りについた。

安心できる温もりに、私もようやくぐっすり眠れる…。

おやすみ、哲也。



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