ミイラ


―――直人に抱かれた翌日、依頼人の女が半額支払いにきた。

生々しい私達の声がそこで哲也の手によって依頼人に聞かされた。



「恋人…ってわけじゃなかったようだけど、どうしますか?」



哲也の言葉に困ったような依頼主。

突き付けられた現実をまだ受け止められていない、そんな顔をしている。

てっきり直人があの女の恋人だと疑わなかったから、動揺すら見える。



「もっと傷つけて欲しいの。妹以上に苦しみを与えて欲しい…」

「では、精神的にこの女が不安定になるように仕向けましょうか?」



哲也の提案に表情を明るくさせて。



「それでお願いできますか?」

「もちろんです」

「ではその時に残りの支払いをしにきます」



そう頭をさげた依頼人。

その後スッと視線が私に飛んでくる。



「それにしても、まるでミイラになってるみたいね…」



まるで疑いの目で私をジロジロと見るから心臓が痛い。

改めて聞いた直人の声は低くて、それだけでドキドキする。

私も、あんな声出すんだ。

それが仕事の一環だったとはいえ、恥じらいぐらいは人並みに持っている。



「ご安心を。ユヅキの心は僕のものですので。……ね?」



ポンって頭を撫でられて哲也に覗きこまれる。

その顔がイエスを求めている。

答えを出せって言ってる。



「うん」



小さく頷くと嬉しそうに哲也も微笑み返した。

哲也のものでいられたら幸せなんだろうか。




早瀬紀子、直人に付きまとってるストーカー。

私の依頼はこのストーカーを撃退することに変わりつつある。



「まぁこっちが何もしなくても仕掛けてはくるだろうな…。ユヅキトレーニングしとくか」



依頼人が帰ったここ、黒沢探偵事務所。

ソファーに座っている私に哲也特性の珈琲が出てきた。

それを一口飲むとほろ苦くて美味しい。



「どんな風に苦しめたんだろ、亡くなった妹さんのこと」

「ある程度調べはついてる。今夜啓司が情報あげてくれるはずだ」

「啓司が逆にハニートラップ仕掛けても良さそうだけどね」

「…そうだな。広臣も剛典もそーいう意味では使えるから、やり方はある」



何も聞かない哲也。

朝、直人が出勤するのと一緒に家を出た私をしっかり迎えに来てくれた哲也の耳にも私とお揃いのピアスがついている。

何も言わずにポンポンってハグしてから私の手を引いてここまで連れて帰ってきてくれた。

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