信頼できる人


「お邪魔します…」



昨日入れなかった直人の部屋。

さすがデザイン会社の社長だけあってタワーマンションの最上階のまるでスイートルームみたいだ。



「ホテルのスイートみたい…」

「え?ここ?」

「はい。緊張します…」

「慣れて…」

「うん」



直人に手を取られて東京の夜景が一望できそうな大きな窓から外を覗く。

フワっと後ろから抱きしめられて直人の顎が私の肩にチョコっと乗っかっている。

お腹に回された腕がギュっと距離を縮めて耳にかかる吐息が熱い…

きっと振り返ったらキスをくれる。

キスしたら全部飛んじゃう。

抑えていたもの全部飛んで直人を求めてしまいそうな自分をグっと堪えなきゃ。



「ユヅキちゃん…」



首筋にチュって小さなキスが落ちてきて。

直人が肉食なのが分かった。

でも心地いい。

そのままずっと触れていて欲しい。

心なしか手が胸の位置まであがっていて。

クルリと直人の腕の中で向きを変えた私を待っていたかのよう、直人が顔を寄せる。

だからその唇に人差し指を添えてキスを止めた。



「…え」

「まだダメです。直人さんにちゃんと聞いてからですよ?」



すっかり忘れていたのか一瞬何のこと?って顔をした後、すぐに「あ、そうだ、ごめんね」私を離した。



「うわ俺、最低だよね。何か焦っちゃって…。早くユヅキちゃん欲しいって思っちゃって…ごめん。ほんとガキだな。座って、珈琲淹れるよ。あ、紅茶の方がいいかな?」

「うん。私も一緒に淹れる」

「うん」



カウンターキッチンに移動して直人が買っておいてくれたんだろうか?私の好きなアッサムのティーパックがあって。



「え、これ直人さんが買ったの?」

「え?うん。どれだか分かんなかったんだけど、読んだらミルクティー向けって書いてあったから。苦手だった?」

「うううん!これが一番好き!」

「ほんと?よかった!」

「嬉しいな、何も言ってないのに伝わってるみたいで…」



紅茶を淹れながら直人を見るとクシャって髪を撫でられた。

二人で飲み物を準備して大きな黒いソファーに向い合わせで座る。



「昨日の電話の相手だけど…」



ようやく本題に入った。

一度目を逸らした直人は、小さく息を吐き出すと真っ直ぐに私を見つめた。



「ずっと付き合って欲しいって言われてて。でもそういう感情は持てないから言われる度に断ってはいたんだけど、それが原因で少し困ったことがあって…」

「…困ったこと?」

「うん。俺と関わった女性への陰湿な嫌がらせ…。ユヅキちゃんに被害が出る前に食いとめるから…」

「被害…」

「あーうん。ちょっとやり方が陰湿で…」

「うん…」

「怖い?」



真っ直ぐな瞳は真剣で嘘なんて見えない。

でもそれで人一人亡くなってるのが事実。

普通なら怖いと思うんだと。

でも哲也やアキラがいるからってことじゃなくて、単純に直人に守って貰えるなら怖くないって思えた。

自分の人生預けてもいいって思えるぐらい、信じてもいい目だったんだ。


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