見えない気持ち


「元カノ…とか?」



私の言葉に直人の表情が消えた。

だからいかにも不安げな顔で、さも泣きだしそうな顔で…



「それも家でちゃんと話す。でもこれだけは信じて?…俺はユヅキちゃんのことちゃんと考えてるし、未来も見てる。いい加減な気持ちはカケラもないから」

「直人さん…――大好き」

「え…―――参ったな、この子は。俺のが子供みてぇなんか…」



困ったような、でも照れたような嬉しそうな顔に胸の奥がまたギュっと痛い。

直人のそんな顔、後どれぐらい見れる?

ずっとずっと見て居たいよ。








「お疲れ様でした」



そう言ってカフェのスタッフルームを出ようとした。



「ユヅキ!」



フワリと後ろから哲也の温もり。

ドクドク…って背中に感じる哲也の鼓動に思わず振り返る。

そのまま壁に追い込まれてキスが降りてきて…



「ンッ、てっちゃっ…」



指をキュっと絡められて目を開けると哲也と目が合った。

チュって小さなリップ音と共に離れる唇。

いきなりのキスだったせいか、呼吸が乱れていて。



「…やだな」



そう言ってギュっと抱きしめられた。

え、やだ?

なに?



「てっちゃん?」

「…冗談、何でもない。今夜はきっと戻らないね?」



どうしてそんな顔するの?

手を哲也の頬に添えると、目の瞳孔まで開いたようで。



「てっちゃんが嫌なら帰ってくるよ?」

「え…ユヅキ…?」

「てっちゃん私のこと好き?」

「………」



何も答えない哲也。

それもアキラに口止めされてるの?

直人に惹かれてる気持ちもあるんだろうけど、哲也を悲しませたくはない。



「自分の気持ちが見えないよ私。てっちゃんのこと苦しませたくない…」

「行ってこい。仕事だから…」



背中を押す哲也はさっきまでの切なそうな顔のカケラも見えない。

哲也に背中を押されて直人の元へ駆けていった。


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