肉食
「直人さんっ!」
カランってお店のドアが開いて待ちわびていた顔が入ってきた。
私の呼びかけに軽く手を挙げて微笑む直人に胸がキュっとする。
ポカポカと温かい感情が私の鼓動を速めていくような感覚だ。
「朝寝てたでしょ?ごめんね。会議の前にユヅキちゃんの声聞きたくなっちゃって…」
「…電話に出れなくて悔しかったです。でも今逢えたから嬉しい。すごくすごく逢いたかったです、直人さんに」
「俺も」
ポンポンって嬉しそうに私の頭を撫でる直人に微笑み返した。
カウンターに座って私のサンドイッチを待っている。
「今日は何がいいですか?」
「う〜ん。肉!」
「え、肉?珍しいですね」
「いやいや俺肉食だよ」
「え?」
「えっ?あ、いやそういう意味じゃなくてね…。あながち間違ってもいないけど…」
ちょっとだけ照れた顔。
肉食だって言って照れてる直人は今夜私を食すつもりだろうか?
チラって見ると目が合って、ほんのり笑っている直人の瞳は熱くてどこか揺れて見えなくもない。
「直人さんの家、行ってもいい?」
「もちろん!いいの?ユヅキちゃんは?…家まで来てくれたら俺、肉食だから…そーいうの、いいの?」
大人の付き合いには確認が必要なんだろうか?
それとも私がまだ未成年だから?
19歳の子供だから確認してくれてるの?
大丈夫、私なかなか上手にできると思う。
だって私を仕込んだのは他の誰でもない哲也だもの。
私の言葉を待っている直人はちょっとだけ落ち着きのない子供みたい。
歳は直人の方がずっと上だけど、童顔のせいか哲也よりもずっと年下に見えた。
「直人さんに任せます。私は傍にいられたらそれだけでいいんで…」
「…可愛いこと言うなぁ、ほんと。俺の心も洗われるよ、ユヅキちゃんと一緒にいると…」
ちょっとだけ遠くを見つめる直人の瞳に一瞬だけ影が映った。
ブラックな直人はあの女と何か関係しているってこと?
どう、なんだろう…
「あの…昨日のお電話なんですけど…」
心配顔の私をジッと見つめる直人。
あの電話は確かにあの女の匂いがしたわけで。
家に行けば何か少しは分かるとも思うんだけど…肉食だからすぐにそうなっちゃうかもしれないし。
やっぱり仕事としてちゃんと直人を見ないと、せっかく哲也がくれたチャンスを逃したくない。
苦しい気持ちと、幸せな気持ちどっちもが私の心にいるんだった。