責任
「アキラ…最後までやらせてやってよ…。俺がちゃんと責任取るから」
聞こえた声は他の誰でもない哲也の声。
アキラの肩に顔を埋めたまま動けない私の後ろからポンポンって背中を優しく撫でてくれる。
肝心な時に、ちゃんと守ってくれる哲也。
いつだって私が傷つかないように全力で全てのものから守ってくれる哲也。
なんで私、哲也を好きにならなかったの?
啓司に言われたことが今更頭を支配している。
哲也の想いが愛じゃないわけない…
でもそれを受け止められるほどの気持ちが私にはなくって。
「ごめんなさい、私…従います、全部全部。これ以上てっちゃんに迷惑かけたくない!一人で前に進みたいよ、私っ…」
出した声は悲しいくらい震えていて、おまけに涙もボロボロと頬を伝っていく。
そんな私を見るのはここの住民も初めてのことで、みんながほんの少し動揺しているのが分かる。
私の態度に、みんなが口をつぐむ。
そこにいる臣も、剛典も黙って私を見ている。
「決まりは決まりだし、俺達はプロだ。仕事においても妥協も失敗も許されない。一度言った言葉は二度と消せねぇよ」
アキラの冷たい声にまた涙が零れた。
「けど…ユヅキのことは哲也に任せてある。だから報告は全部哲也があげろ。俺はその言葉を信じるだけだ。啓司には哲也に報告するようにもう言ってある。…ユヅキ、頑張れよ!」
ポンポンって頭を撫でたアキラはゆっくりと私を離してソファーから立ち上がった。
「ご馳走さん」
アキラのマグカップを置くとそのままハウスを出て行った。
ゆっくりと哲也が私に近寄って腕を掴まれる。
ソファーの下、しゃがんでいる哲也は私を見上げていて。
「直人に連絡してこいよ。今日も逢いたいって。俺が朝飯用意しておくから!」
「てっちゃんいいの?」
「いいも悪いも俺が決める。ユヅキの涙なんか見たくねぇもん。俺のこと以外で泣くユヅキなんてもう見たくねぇ…」
吐き捨てるような言葉だった。
哲也のそういう少し困ったような顔見るたびに胸が痛い。
直人と出逢って私、色んな感情が動き始めたみたいで、変わりゆく自分が少しだけ怖く思えた。
恋は素敵なことだって、胸を張って言えたらどんなにいいのだろうか。
哲也、私も哲也の泣きそうな顔はもう、見たくないよ。