ブー…ブー…―――

遠くで鳴ってるバイブ音にパチっと目が覚めた。

啓司の腕枕の寝心地は文句なしで、カーテンの隙間から洩れる木漏れ日に目を擦った。

スマホの画面に出ている”着信 直人”の文字に私はそれを取ったけど通話ボタンが押せなくて。

逢えないってどう伝えたらいい?

こんなにも心はきっと…逢いたがっているのに。



「出ねぇの?」



白タンクの姿の啓司が細い目でまだベッドに寝転がったままこっちを見ていて。



「うん…何て言えばいいか分からないし…」

「声、聞きたいのに?」

「え?」

「顔に書いてある…」



そんな寂しそうな顔で言わないでよ。

別に直人の声なんて聞きたくない。

矛盾した気持ちに押し潰されそうだった。



それから何度か着信があったけど、諦めたのか仕事に戻ったのか直人からの電話はかかってこない。

変わりに入るLINEへのメッセージ。

私の体調を心配しているものと、それから…”早くユヅキちゃんに逢いたい”―――

文字を見ているだけなのに心が熱くなる。

こういうの、どう返せばいいの?

そんなことすら分かんなかった。




「おはよー」



ボサボサ頭のままシェアハウスのリビングに顔を出すと、珍しくソファーでアキラが珈琲を啜っていた。

私はすぐさまその隣に座ってアキラをジッと見つめる。



「なんだ?すげぇ頭だぞ」



目を細めてニッコリ微笑むアキラは私の髪をゆったりと撫でていて。



「アキラ、直人のこと何か分かった?」

「…やけに熱心じゃねぇか?」

「別にそんなんじゃ…」

「今啓司が調べてっから待っとけよ」

「へ?けーじ?」

「そう、啓司!」

「うっそ!それ昨日一言も言ってないし!」



シャワーを浴びに行った啓司が戻ってきたらドついてやろうと思えた。

知ってて私の話聞いてたの?

何か悔しい!

それで哲也に誘導するってことは…



「ユヅキ」

「うん?」

「片岡があの女の恋人じゃなかったことが判明したら、お前のミッションはこのまま打ち切りだから。片岡のことは忘れろ、いいな?」



分かってる。

アキラの言ってることは間違ってない。

間違っているのは私の心の中。

だけど、どうしたって心が追い付けない。

うまくできるって思ってたのに。

男なんて誰も愛さないって思ってたのに…



「やめるか?この仕事…」



静かなアキラの声に俯く。

答えられない。

即答できない。

直人がいい人であって欲しいと思いながらも、あの女と付き合っててくれないとこのミッションが終わってしまうのなら、悪い奴でも何でもいいから付き合ってて欲しいと思ってしまう…



「困ったちゃんだな、うちの子は」



ギュっとソファーの上、アキラが私を抱きしめた。

肩に顔を埋めるとアキラの黒いシャツが私の涙で滲んでいく。

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