馬鹿な私


啓司がスッと私の頭の下に腕を入れる。



「え?なに?」

「何って腕枕。それぐらいみんなしてくれてんだろ?」

「…ないけど」



哲也も臣も腕枕なんてしてなかった。

なんだろ、この安心感。

啓司ってじつはいい男だったのかな…



「は?基本だろ、腕枕って。全くあいつら基本がなってねぇなんて、たく。いいよ、腕枕ぐらい毎日でもしてやるから、気持ちが定まらねぇなら俺を選べよ」



くぐもった低い啓司の声。

耳元で聞いてるのはすごく心地が良い。

私を女として見ていない啓司だからなのか、心が楽だった。



「うん。啓司ありがとう…。これ安心できる…」

「だろ?だいたいの女はこれで落ちる」

「啓司って本当はちょっとだけかっこいいんだね」

「あのなぁ、テンション下がること言うなって。ちょっとだけじゃねぇよ俺!お前ぐらいだよ、俺の魅力に気づいてねぇの!」

「プッ、タロウのくせに!」



思わず笑う私をギュっと抱きしめてくる。

元カレの役を哲也に命じられた啓司をタロウと呼ぶのは可笑しくて。

啓司が怒らないって分かってるからもっと言いたくなる。



「だせぇ名前つけやがって。抱かれながらタロウって甘い声出してた設定だかんな、ユヅキ!後悔すんなよ?タロウにしたこと!」

「しなーい!抱かれてないもん!」

「ガキだもんな、お前!哲也が熱上げてる意味が俺にはわかんねぇよ」



地味に失礼なことを言われた。

でもそんな関係が嬉しかったりもする。

ここにきて初めて啓司の存在が大きく私に芽生えたような感覚だった。


でも…――



「てっちゃんは私を本気で好きじゃないもの。訓練の為に抱いてるだけだもの」

「お前それ本気で言ってる?」



ちょっとだけ険しい顔の啓司。

真剣な顔、似合ってないのに。



「言ってる。臣はね…ずっと好きだよ、愛してるって言ってくれたんだけど…私はそういうの分かんないから苦しかった。剛典は至って普通…。直人はどんな風に抱いてくれるんだろね…」



抱きしめられたついでに啓司の分厚い胸板に顔を埋めるとギュっと抱きしめ返してくれる。



「馬鹿なんだなユヅキ。俺が女だったら哲也しか愛さないと思うけど」

「馬鹿なんだよ、私。愛情なんて知らないのに、欲しいって思いたくなんかないのに…」



直人に逢いたい…

いつになったら直人に逢ってもいい?

私達、いつになったら抱き合える?

啓司の中に直人の温もりを思い出してそっと目を閉じた。


- 40 -
prev next
▲Novel_top